秋の文楽シーズンがやってまいりました。
第一弾は、「奥州安達原」。
いわゆる前九年の役で源頼義やその子義家らに討伐された、奥州安倍氏の貞任・宗任兄弟が逆襲を企て…というようなお話(時代物)。

ごたぶんにもれず、実在のメジャー武将たち以上に、その周辺の様々な老若男女の悲劇が胸を打つ物語としてちりばめられている。
全五段の芝居のうちの、三段目四段目のみの上演です。それでも5時間近いのですが(笑)

「朱雀堤の段」では、駆け落ち出奔したものの夫と別れ別れになり零落した盲目の物乞い・袖萩とその幼い娘お君、袖萩の父・傔仗(次女を義家に嫁がせ、義家の舅でもある)、義家の密命を帯びて出奔した家来生駒之介と恋人恋絹、生駒之介を愛しつつ身を引いた義家の妹姫、など、多彩で複雑な関係性の登場人物が、あれよあれよという間に一気に紹介される。
この段は珍しく出遣いじゃなくて、人形遣いさんたち全員黒布に顔までかくしていらっしゃったので、今回あまり予習しなかった私はコレは誰?アレは誰?と、ぼんやりと想像しながら見てました(笑)
顔見ないでわかるほど見巧者じゃないもん!

顔が出てると気になる、と、どこかの市長が言ったりもしてましたが、個人的には出てるほうがなんとなく華やかでいいです。黒子スタイルはもっさりするけど、ビシッと和服で決めた主遣いさんたちはカッコイイ(ミーハー)。

次が「環の宮明御殿の段」(ここから、主遣いさんたちの顔がわかる)、
天皇の幼い弟・環の宮が貞任らにさらわれたらしいというので、義家・傔仗と朝廷から来た中納言則氏が、容疑者への詮議を行う。則氏が玉女さんだった。
この則氏が、えらくまたイヤミカッコイイんである。ちょうちょうはっしと容疑者(宗任)を追いつめつつ、返す刀でざっくりと傔仗に「散り際を心得よ(さっさと切腹しろ)」と追いつめる。まっ黒な装束の袖口にちらりと赤をのぞかせ、うわーカッコイイけど酷い。後で、実は…な正体暴露があるけど則氏のビジュアルが実にステキだった。実は貞任の変装だったので、途中で姿が変わってしまう。残念だ(笑)。

続いては極寒の中、父親が危機にあると聞き駆けつけた袖萩親子の愁嘆場。
結局家には入れてはもらえず、倒れ伏す母に自分の着物を脱いで掛ける幼い娘。泣かせます。貧しくとも、それだけの愛と信頼に結ばれた親子関係…昨今、親と子の間の凄惨な事件が多いことも思い起こされ、薄倖のこの親子の情愛は忘れられない名場面。
結局、なんと袖萩の夫は謀反人貞任だったとわかり、板挟みの彼女は、父親と時を同じくして自害してしまうのですが…

さて、生駒之介夫婦の道行の段をはさんで、四段目の「一つ家の段」。
安達原といえば老女です。
勘十郎さん登場!
ゆるゆると、あばらやの中で糸車を回してるだけで怖い婆人形を遣っておられます。
一見鬼のように怖い婆さんですが、実は、…見た目よりもっと怖い…
一夜の宿を借りようとした生駒之介夫婦を騙して、恋絹のお腹の胎児を奪おうとする。
恋絹に斬りかかり、腹を裂いて中から…うううう、ありえないほどグロく強烈な場面が…
人形浄瑠璃でないとこうは直截に表現できないですよね。
そしてその動機とは。

実は老婆は貞任・宗任の母であり、亡夫の復讐のために鬼と化しているのだった。
(後半、いきなり煌びやかな十二単姿に変身する!)

終盤は、もうあれよあれよの「実は○○は○○だった!実は××したと見せて××していたのだった!」の大連発。変性男子まで登場。どんでん返しにつぐどんでん返しのワクドキクライマックスを迎えるのだが、ただ、ひとつ気になった。

さらわれた環の宮らが、義家の送り込んだ偽物だったのなら、傔仗はどーして切腹しないといけなかったのか…???
則氏が促したせいで、義家がどうとかする前に腹を切ってしまったということになるのだろうか?いやしかしそれはあまりに…

やっぱ、どんでん返しをいっぱい仕込むのに夢中になった作者が、盛り上がってりゃそれでいいわ、で、流してしまったということ…なのか…?作者の近松半二はどんでん返し好きで知られているけど。

まあでも面白かった。

前に座ってた女性があんなにしゃんと背を伸ばし、頭を高くして見てなければなあ…
かなり見にくくて、首を右に左に伸ばしてみていたからちょっと疲れた。
もともと長身な上に着物で来てるから、帯のせいで背もたれにもたれにくいのはわかるけど。
やっぱり舞台鑑賞は、後ろの席のこともちょっとだけ考えて座ってほしいなあ。くすん。

なんか去年もこういうことが一回あったなあ。同じ人だったりして。やだな。
来週行く第一部では、もう少し前の人が頭が低いといいけど。
途中で寝てくれても可(席に沈み込むから)。

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