毎日寝不足でふらふらしながら…行ってきました文楽昼の部。
『平家女護島(へいけにょごのしま)』、『鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)』。
近松門左衛門の作品を集めてる。

「平家…」は、鬼界島へ流罪になった俊寛僧都らの話。流人三人のうち俊寛だけに赦免状が来ず…というのは平家物語の有名なエピソードだが、ここでは三人のうち、仲間の一人と結ばれた地元の海女を都へ同道させてやるために俊寛がわが身を犠牲にする話になっている。
序盤、恋の馴れ初めを嬉しそうに披露する語りがちょっとエロくて笑えた。半裸で水中を駆けめぐる野生の美女、豊満な肉体にまとわりつく魚たち、って、えらくビジュアル…
流人生活でボロボロフラフラの筈の俊寛と根性悪役人瀬尾太郎の立ち回りあり、最後は高台へ駆け上り、去ってゆく船を見送る俊寛の図をすごい大道具でもって魅せてくれる。ここ、初めて文楽劇場へ行ってみる前にNHKで見た場面だなあ。
こういう男っぽい役はやはり玉女さんですねー。蓑助さんの海女千鳥かわいいー。玉志さんの康成、すごく体壊してそうで、リアリズムですかあれ(笑)
海女ちゃんの方言は少しわかりにくかった(爆)

「鑓の…」は、もう少し複雑でキレイゴトですまない人間ドラマ。不条理の悲劇でびっくり(でもうまいこと書くな近松…)。
“鑓の権三”とうたわれる笹野権三は、家中でも評判の武芸の達人で、茶道もよくし、おまけに絶世の美男。油壷からでたような、どんな女も見とれるような、と語られる。
こんなに何もかも「持ってる」男が、そもそも犯してもいない姦通のために妻敵として師に討たれる、という物語。
多分自分でも、こんなに何でもできるんだから、と、外には見せねど野心を心に飼っていたろう。言い交した娘はいるが、不出来なその兄伴之丞(権三をライバル視してくる)が鬱陶しいのか、権三にはイマイチ積極性が感じられない。出世のカギとなる、茶道の秘伝の伝授をめぐって、茶道の師匠の妻おさゐから「娘の婿になるなら伝授する」と言われて、承諾してしまう。が、娘の婿にと思っているだけの筈が、権三に別の女がいた、と知ったとたん、我が事のように嫉妬にかられたおさゐはにわかに狂態を演じて権三の帯を解いて投げすてるなどし、帯を拾った伴之丞から、おさゐと権三は姦通者として告発される…

姦通など全くしていないのに、この濡れ衣。そもそも告発者の伴之丞はかねてからおさゐに横恋慕して彼女を困らせており、この日も庭に潜んでいたのであった。ヒドイ。しかも正気に戻ったおさゐは「こうなったら夫に妻敵として討たれて、彼に男の一分を立たせてやって欲しい」と権三に訴え、残してゆく子どもたちへの未練を口走る始末、…なんて…なんて立つ瀬のない権三…そりゃ彼、恋人より出世を取った感はあるがここまでトンデモない運命の罠にかかるとは…。

…さて、ここでちょっと客席にモノ申したい。
呆然と見ていた私だが、このクライマックスでなぜだか、「妻敵になってくれ」て所で場内にみょーな笑いが広がった。子どもへの未練をもらす所でもだ。これ失笑するところじゃないだろ。なんでこんなんなの?私が行った今日の客だけ?

…明日、職場の文楽好きに聞いてみよう…


そりゃあ、今の世では余りにむちゃなナナメ上論理かもしれないが、お笑いじゃなくてむしろ不条理劇だろう。少々不快に感じた。
おさゐも、衝動的にとんでもないバカなことをして(更年期のなりかけか?)、でも親の情は普通に残ってておかしくないじゃないか。
昨日まではモテモテのエリート青年だったのに、今日は心も通っていない年上女と駆け落ち、明日は妻敵討たれ待ち。
あふれる美貌も教養も自分の運命を暗転させた。もはや武芸も役には立たない。
「せめての作法、刃(やいば)は抜く」と言いながらも、本気で斬りかかりはしない権三の暗い暗い表情がしみました。
さっさと恋人と祝言あげといたらこんなことにはならなかったのか?
権三はちょっと自己チューだけど、よくある程度のもの。これほどまでに不幸な末路をたどらずともよかったかも…無実なだけに。
(伝授に恋人手製の帯を締めてきたのも、なぜかな?まだまだ迷いがあったのか?)

現実は、予想のナナメ上をいくのだ、という意味では、昔も今も変わらない話。
こう見えて案外、近松の世界は現代的なのかもしれません。

権三は桐竹勘十郎さん。女殺の与兵衛とはうってかわって静かなかんじ。
おさゐは文雀さん。


おまけ。

“この言い回しは、この浄瑠璃から来てたのか!”シリーズ。
今回は、

「馬から落ちて落馬して」(鑓の権三) でした(笑)

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