国立文楽劇場「心中天網島」
四月公演、演目の二つ目を見に行って来ました。
まさかここまで忙しくなろうとは思っていなかったので…とはいえ、ひとつのピークを越えたといえば越えたとこなので、ちょうどよかったかも?
しかし、過労気味だったせいか、四月初めの「伽羅先代萩」とほぼ同じ席、かなり前の方の席だったのに、最初ちっともよく見えなくて、人形のカオも人形遣いさんのカオも焦点が合わなくて、愕然としました…
目薬さして、二つめの段からは、四月なみに見えて来たのですこし胸をなでおろしましたが。眼精疲労たまってたんかな…やだな…

作者は近松門左衛門。
去年のサマーレイトショー「曽根崎心中」で初めて文楽を見て大ハマリした私だが、心中系のいわゆる世話物が嬉しいというわけでは必ずしもない。だって、心中する男って、たいがいイマイチどーしょーもなさげな男だもん。(時代物の“英雄”だって、今の目で見ると『義理』を通すための無茶と無理でできあがってるようなもんだけどサ)

紙屋治兵衛は、できた奥さんと二人の子供もいるのに、遊女小春と深い仲。身請けまではままならず、心中を約束したものの、周囲の説得で小春は黙って身を引こうとする。裏切られたと思って見苦しく荒れる治兵衛だが…

ほんとにどーしょーもない男だ。彼を死なせぬよう妻おさんに頼みこまれて黙って泥をかぶる小春、彼女の誠意を知るからこそ、どたんばで「一人で死ぬ気の小春さんを助けてやって!あなたのプライドを優先して!」と、なけなしの家財を自ら夫に差し出すおさん。

女二人のほうがよっぽどデキた人間だし、ここに至って治兵衛は(おそらく)両方の女にホレ直す。けれども、時すでに遅し。彼は結局、小春とともに死んでやることくらいしか出来ない。しかもしっかと互いを帯で結びつけてからこと切れた曽根崎心中とは違い、小春を手にかけたあと、治兵衛は一歩離れて首を吊る。心中なのに?でも、おさんを思うと、甘甘に二人くっついて死ぬこともできなかったのではないか…と、しみじみ哀しくみじめな死にざまだ。
それにしても最後まで、中途半端なダメ男、治兵衛。

でもそれが案外と納得がいっちゃうのは、治兵衛の周囲に妙に濃厚な情愛が満ちすぎているという設定によるのではなかろうか。おさんが小春に文を送るのはわかるけど、小春に意見しようと変装までしてしゃしゃり出てくる治兵衛の兄孫右衛門。…お兄さん、ちょっとブラコンなことないですか。妻おさんは従妹、姑は叔母、きっと幼い頃から知った仲。
治兵衛はダメな奴だけど、周囲がかまいすぎたから悪所通いで遊女相手に「これぞ恋!」と盛り上がっちゃったんではなかろうか。

などと、主人公のダメっぷりに、何故か説得力が漂ってくるのはやはり近松の偉さなのかな。

前に座っていたヒトが信じられないくらい頭を高くして見ていたのでかなり見づらく、苦労しながら見たせいか、ギリギリまで涙は出なかったが、なんというか感心した。
最後の中途半端さには、ホロリとさせられたが…。若々しさが先に立つ、甘美な「曽根崎心中」とはまた違った、ほんとにほろ苦い、ホロリであった。

治兵衛と小春は玉女さんと勘十郎さん。ふるふるとチワワのようにふるえてばかり、泣いてばかりの小春は可愛かった…
治兵衛は、何かと言うとものかげから覗いたり、ものかげに隠れたりしてばっかりの情けない奴(内蔵助とかとエライ違いだ!)。ものかげから玉女さんと治兵衛の人形がする~と頭をもたげてくるところなど、妙に可愛かった。(←多分まちがった観賞…)
清十郎さんのおさんの、「できた妻」っぷりも良かったなあ。己の恵まれぶりに気づいていない治兵衛ってアホだよ。でも、こういうアホな状況って…きっとあるよなあ。説得力あるよ、うん。
義太夫方面では、咲大夫さんのメリハリのきいた語りが特に印象的でした。
(しろーとなんで、あまり真に受けすぎず読んで下さい)

夏の公演のチラシもできてた。さあ、また、切符申込むゾ~

コメント

お気に入り日記の更新

日記内を検索