佐助を討て

2012年9月24日 読書
犬飼 六岐著。

豊臣氏は滅びたが、大御所徳川家康はいまだに、不世出の忍び・猿飛佐助の悪夢にうなされていた。佐助を含む真田の残党狩りへと駆り出された若き伊賀者・数馬だが…

佐助を倒すどころか、その容姿を確認しようとするだけでも大量に死者が出る始末。佐助に遭遇しながらからくも生き延びた数馬は、上司の命で様々な地へと飛ぶ。平和の世になった筈が、「佐助を討て」の命に従った伊賀忍者たちは次々と落命し、その数を激減させてゆくのが皮肉である。
数馬は、誠実だが、特に抜きんでた技量をもつわけではない。だが、戦いの最前線に立つ「中堅どころ」の能力の高い先輩たちから次々と死んでゆき、古老と若者ばかりが残されると、いつしか自分より若い忍びたちに目配りするような立場におしあげられてゆく。
若き中間管理職と言ってもいいかも。

こうした、さりげなく現代人の心情にも添う凡人の主人公設定が、繰り返される凄絶な戦闘場面とは対称的で、全体としては割と淡々としたなかに、不思議に透徹した印象がある。不器用な、淡い恋模様もちりばめて、いい感じだ。
むしろ名人や天才は、戦いの中で戦いに淫して狂ってゆく。常人の心の届くものではない…
佐助は別格としても、こうした天才肌の忍びたちの群像も、物語のアクセントになっている。
最近読んだ著者の作品の中では一番面白く感じた。

読書メーターなどを見ると意外に点数が辛いのが、とても不思議だ。
この抑制のきいてる所が、若い人に受けないんだろうか。
デビュー時はもっとはっちゃけていたのが、巧くなった…と私は思うんだけど。

といっても唯一、最後の最後で「えーと、あの××は?」と思うのは残念でした。
あと一声、簡潔にで良いから説明かヒントが欲しかった。私が読み過ごしたんじゃないよな。
誰でもが徳川家康の没年(年だけでも)を知ってるわけじゃなし。
(私もぐぐって確かめました)
この著者らしい、えっ!という仕掛けでもあるんですが。

ここは穴なんだろうけどつい夢中で読んだし読んでる途中の印象は良かったので★奮発。

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