1959年、J・リー・トンプスン監督作品。イギリス映画。

あちこちで結構面白いとの噂を聞いてる冒険映画、しかもKEEPDVDで500円てんで手を出してみました。
1905年、インドの北西部。内乱状態のとある国から藩王に頼まれ幼い王子を連れて脱出した米人家庭教師キャサリン(ローレン・バコール)と英軍大尉スコット(ケネス・モア)。英軍の城砦のあるハセラバッドから列車でデリーへ行く予定だったが、ハセラバッドへたどりついてみると最終列車は出た後、しかも暴徒による包囲が始まっていた。スコットは車庫に唯一残っていたオンボロ機関車を修理して走らせようと考えるが、鉄路の彼方には数々の危難が待ち構えていた…

それにしても、毎度のことだがバコールの頼もしげなこと。最初は長いストールに頭や首を隠しているが、じきに「いつもの」白いシャツブラウス姿腕まくりで颯爽と動き回る。相方?の大尉ケネス・モアはやや鈍な感じながら堅実で良識とユーモア感覚を兼ね備え、しかもマメな働き者というかなり理想的に描かれた軍人さん(序盤、「英国人はのんびり構えすぎ」と自分の上司に舌鋒鋭く食って掛かるバコールを見て笑いをこらえていたのが印象深い)。
王子と家庭教師と大尉(+部下の兵士二名…たぶん)のほか、オンボロSLに乗りこんだのは英国の役人(ウィルフリッド・ハイト-ホワイト)、総督夫人(アーシュラ・ジーンズ)、強引に乗り込んできた記者(ハーバート・ロム)と武器商人(ユーデン・デッカーズ)。過激派寄りの記者や無責任な武器商人の言動は時に一行の和をかき乱すが、そのへんの会話や人間模様の妙もお楽しみ。飄々とした役人と意外に肝のすわった総督夫人も含め、全員口がたってて(笑)存在感のある個性を見せてくれるが、なんといっても「機関車命!」のインド人機関士(I.S.ジョハール)の底抜けの笑顔と根性が忘れられない。

脱出行のスリリングな挿話をぴりっとした会話の数々でつないで飽きさせることがなく、また最後まで「暴徒=悪、英国=善」というような単純構図に陥ることのないオトナのシナリオ。英国製だと戦争映画もともすれば「冒険映画」の色合いに変わるのだが、爽快な英国的冒険精神にほろ苦い歴史感覚を適度に組み込ませ(なにしろ英国統治下、植民地時代のインドである)、ああ、よくできた映画だったなあと満足のジ・エンドを迎えるのだった。3枚買ったKEEPDVDの中では一番大作感あり(ハリウッド的大作感に比べれば控えめなんでしょうが、語り口の面白さが補ってくれてます)。

それにしても、何で同じ監督なのに「ナバロンの要塞」の“特命チーム”の描き方には引っかかるのだろう(原作が大好きなので余計に、なのだろうが、私はどうも引っかかる)。アメリカ資本の入る入らないでカラーも変わってくるのかな。
どうモメていてもいざとなるとプロもアマも力を尽くす英国的精神は爽快な冒険物語を生むのだが、うっかりするとよくわからないモメ方をしてサスペンスが増すのか米国的るつぼ…?

コメント

nophoto
たけだ
2011年8月23日23:08

ボースン様

『北西戦線』は、観ていませんので『ナバロンの要塞』について。
原作は読んだかどうか憶えていませんが、ボースン様がひっかかる理由を推測すると。

そもそもは、アレキサンダー・マッケンドリック(『マダムと泥棒』)監督で撮影が始まったのですが、製作・脚本のカール・フォアマンと演出に関する意見が合わず、首になります。
グレゴリー・ペックは、このころ大スターであり、脚本にも随分口出ししたようです。
ペックは『恐怖の岬』で組んで高く評価していたトンプソンをマッケンドリックの後がまに据えました。

それやこれやで脚本の焦点がぼやけたのだと想像します。

ボースン
2011年8月23日23:48

こんばんわ、たけだ様。

舞台裏情報をありがとうございます。ま、撮影現場がごちゃごちゃしてると自然と作品の出来ばえが低下していくのはよくあることですよね。ただ、「ナバロンの要塞」は一般には評価がかなり高いのですが…。スペクタクルとしての評価なんでしょうか(私はスペクタクルにはあまり興味がありませんで…)。

私が引っ掛かるのは、物語中の裏切者に関する扱い(サスペンスの盛り上げ方とおさめ方)と、チームの結束が必ずしもしっくりいかない部分の描き方です。ぶっちゃけて言うと両方ともD・ニーヴンの描き方、となりますし、同時にアリステア・マクリーンの原作との違いが特に大きい部分です。

プロデューサーのせいかペックのせいかわかりませんが、こと冒険&サスペンスに関しては英国流が私好みです…

nophoto
たけだ
2011年8月24日1:09

ボースン様

マクリーンの原作は、冒険小説なのにかならずと言って良いほど推理小説っぽい部分がありますね。
大体は「裏切り者は誰だ?」という謎です。

映画でジア・カラスが扮する人物は存在するのですか?

多分、原作では、ニーヴンが裏切り者第一候補者で、真犯人は別に居た、という落ちなのではないかと想像します。

話は違いますが、わたしは、リチャード・ハリスをこの映画で初めて見ました。
登場時間は短いのですが、たちまち顔と名前を憶えるくらい強い印象を持ちました。

nophoto
たけだ
2011年8月24日1:20

ボースン様

すみません、勘違い。

ペックは、『ナバロンの要塞』でのトンプソンの手腕を買って翌年、自分のプロダクションが製作の『恐怖の岬』に起用した、が正解です。

もっとも興行成績が悪く、製作会社は潰れたようです。

ボースン
2011年8月24日8:19

>マクリーンの原作は、冒険小説なのにかならずと言って良いほど推理小説っぽい部分がありますね。
>大体は「裏切り者は誰だ?」という謎です。

はい、そのとおりです。マクリーンに限らず英国冒険小説にはその手の謎がお約束といっていいほど付随することが多いですね。

が、ニーヴンについての推察は、すみません、逆です。
ニーヴン演じるところのミラーが、裏切者を鮮やかに摘発する長広舌をふるう場面はのキャラの大きな見せ場でして、原作のミラー(原作では彼のみアメリカ人です)もニーヴンも大好きな私は当然凄く期待していたところ、映画の演出では結構場当たり的な印象となっててガッカリした、というオチです。あと、妙なモメかたをするのも原作とは違います。

ずいぶん昔にTVで見て「えー…?」と思って、最近スカパーでやったのを録画したのですが該当部分だけ見直してやっぱり何だか…と思ってきちんと再見できていません。「午前十時の映画祭」にも来たんですけどね。原作至上主義言ってても仕方がないのはわかってるんですが、なまじ原作キャラと演じた人と両方好きなので残念が倍増。ミーハーだなぁ。

nophoto
たけだ
2011年8月24日15:27

ボースン様

なるほど、ニーヴンの演じたキャラはそういうものなのですか。

まあ、この映画は、ペックが主演、製作がアメリカ人と決まった時点で、ジョンブル色が脱色されてしまった訳ですね。

でも私の場合は、リチャード・ハリス、アンソニー・クェル、スタンリー・ベイカーと英国人俳優と裏切り者を演じたジア・カラス(ギリシア人)の印象が強く、ペックは、「大根」と思いました。

ボースン
2011年8月24日20:44

>まあ、この映画は、ペックが主演、製作がアメリカ人と決まった時点で、ジョンブル色が脱色されてしまった訳ですね。

そういうことでしょう。
まあ、ペック演じる登山家マロリーも原作ではニュージーランド人でジョンブルではないですし、何と言うか大根で構わないキャラクターなので、キャスト自体には完全に満足なんですが。演出の、たぶん誰も気にしないようなところの色合いで引っ掛かっているんでしょう私は(笑)
「ナヴァロンの要塞」を語りだすと止まらないので、このへんにしておきます(小説は「バ」でなく「ヴァ」(笑))。

ところでジア・スカラというと、「愛のトンネル」でウィドマーク&ドリス・デイ夫妻を引っかき回した美人さんですね☆あちらでは一転して都会的でオシャレでした。

nophoto
だぶるえんだー
2011年8月24日21:08

マクリーンはほとんど読んでいないのですが
「サン・アンドレアス号の脱出」
は重苦しい迫力がありました。これは映画化されたのかな?

ボースン
2011年8月24日21:41

こんばんわ、だぶるえんだー様。

マクリーンは初期の作品は結構映画化されていますが、かなり新しい「サン・アンドレアス号の脱出」はされていないのではないかしら(実は未読)。
マクリーンは、ぜひ初期のものを読んでいただきたいです。絶対「サン…」より上だろうと思います(未読だけど)。
「女王陛下のユリシーズ号」「ナヴァロンの要塞」「最後の国境線」あたりをぜひとも…

nophoto
たけだ
2011年8月24日22:56

マクリーン原作の映画化作品では『八点鐘が鳴るとき』『荒鷲の要塞』などを観ていますが、一番成功しているのはやはり『ナバロンの要塞』でしょう。
最高傑作と言われている「女王陛下のユリシーズ号」は、映画化されていませんが、無謀にも漫画化されたことが有ります(週刊少年サンデーの昭和45年33号から43号まで連載)。
絵が下手だったので真剣には読んでいません。

ボースン
2011年8月24日23:18

「荒鷲の要塞」はたしか映画化前提に執筆したとかいうだけに、割と原作どおりの、スピーディな“騙し合い”の味が出ていた気がします。知名度と評価は「ナバロン」が高いですけどね。
あとは、「北極の基地・潜航大作戦(=北極戦線)」「オーロラ殺人事件(=北海の墓場)」「デンジャー・ポイント(=麻薬運河)」「秘密諜報機関(=最後の国境線)」もマクリーン原作。そしてもちろん、続編「ナバロンの嵐(=ナヴァロンの嵐)」もありますね。

>最高傑作と言われている「女王陛下のユリシーズ号」は、映画化されていませんが、無謀にも漫画化されたことが有ります(週刊少年サンデーの昭和45年33号から43号まで連載)。

そりゃ無謀な…(^^;)

ちなみに「女王陛下…」の訳者あとがきでは、確か『グレゴリー・ペック主演(ユリシーズ号艦長役)で映画化してくれたらいいのに』とか書いてありました。やはりペックは、マクリーン作品にふりあてても、一番違和感のないハリウッド・スターだったと思います。

nophoto
だぶるえんだー
2011年8月27日20:30

ボースンさんいつもありがとう。ブックライナー(ふつうはAmazonで調べるのでしょうが)でマクリーンの作品の現状をしらべてみたのですが、大半が取り寄せ不可でした。さみしいものです。初期作品も読んでみますね。

ボースン
2011年8月27日21:20

うーん、さみしいですね。私がマクリーンにハマったころはまだまだ現役で書店に並んでいたものですが。図書館でトライして見て下さい。

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