1953年、ヴィンセント・ミネリ監督作品。

「午前十時の映画祭」二年目にしてようやく念願の「バンド・ワゴン」!
チケットをネツト予約した時点では、月曜朝は台風が吹き荒れているはずだったので、嵐をついて見にいくんだ!と、「ガラスの仮面」の速水真澄さん一人しか観客がいない「忘れられた荒野」初演日を思い出して内心勝手に盛り上がっていたのだが、早々に熱低になってくれたから、まあ楽は楽でした(笑)…ちっ。←?

もちMGMミュージカルの中でもアステアの最高作とされるコレ。ジーン・ケリーの「雨に唄えば」と違ってちっとも大スクリーンで見る機会になど出会えなかったので本当にうれしかったです☆
同じバックステージ物でも「雨に…」がミュージカル映画裏話ならこちらは舞台の裏話。舞台人やマスコミへの皮肉も漂う、斜に構えた笑いはやっぱりオトナのアステア様作品ですな(「雨に…」も好きですけどね)。
映画界の大スター、もとい元大スターなトニー(アステア)。新規まき直しをはかって友人の脚本家夫婦と新たな舞台をかけようとするが、売れっ子の演出家(ジャック・ブキャナン)やバレエ出身の相手役ギャビー(シド・チャリシー)とギクシャク。自分などもう時代遅れなのではないか、という不安が彼をナーバスにさせるんですね。でもツンケンしてると見えたギャビーは実はキャリア十二分な大スター・トニーの目には自分が不釣合いに映っているのではと真逆の不安があってこじれてただけ…とわかりかえって意気投合。初演の失敗を乗り越えて再スタートさせた舞台を成功に導く。ある意味自虐的なネタまでやってのけちゃうアステア様のブロ根性が超素敵です。

トニーの"現状"を反映し渋いけどちょっと寂しい"By Myself"からスタート。賑やかな脚本家カップルに会ってからはちょっと気分も明るくなって"Shine on your shoes"でパンチのきいたタップを披露、パァッとはじけるアステア♪
そしてハイテンションなブキャナンらがアステアをあおるThat’s Entertainment"シド・チャリシーとの優雅な"Dancing in the dark"はこれは今さら言う事もない名曲ですね。圧巻です。
そして意外に心に残るのが"I love Luisa"。一転大コケに終わった舞台初日の愚痴パーティで歌い踊って盛り上がる。アステアは別に凄いステップも凄い美声も披露していないのだが、さらっとした味わいが逆にいぶし銀というか年季が光るというか。
盛り上がりきったところで、全員ふうっと押し黙ってしまう。そりゃそうだよ。でもこれがストーリーのひとつの転機にもなる。
「巻き返し」として連発されるナンバーもみんないい感じ。クライマックス、最大の呼び物としては"Girl Hunt ballet"かな?アステアがハードボイルドな探偵を、チャリシーが金髪と黒髪の二人のあぶない美女を演じるモダンバレエ調のナンバー。マイケル・キッドの振付の斬新さは「今見るとそうでもない」だの「タフな探偵てのはアステアには無理がある」とかビミョーな評も見掛けるけど私は結構好きだな。アステア様でハードボイルド探偵!というウルトラCな状況を、なんだかだ言ってもカタチにしちゃうアステア様が楽しくて仕方がない。なに、「タフな探偵=マッチョな探偵」ととると「無理がある」のかもしれないが、そもそも銀幕のA級ハードボイルド探偵(サム・スペード&フィリップ・マーロウ)は、体格的には全然ぱっとしないあのハンフリー・ボガードじゃあありませんか。よりマッチョ肉体派なマイク・ハマーあたりも映画化されてるけど結局B級ですもんね。

シド・チャリシーは、こういうハードな悪女とか踊らせると「向いてるなー」と思います。逆にいうと「普通の可愛いお嬢さん」として踊るにはちょっとカドが立つキャラなのではなかろうかとも。50年代ミュージカル界きっての美貌とみごとな肢体とダンステク(バレエ寄りだが)も持っているけれど、ジンジャー・ロジャースのような優しい女っぽさはちょっと不足している気がする。好みですけれど、ね…(だから「ニノチカ」のクールビューティなんてのは凄く合うと思う)。

辛口のユーモアをちらりちらりにじませながら、MGM最盛期の豪華さでアステア様の至芸をプッシュしたゴージャスな逸品。
あー、やっぱりもう一回行く。行きますよゼッタイ(笑)

コメント

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たけだ
2011年5月31日22:35

ボースン様

作品の追っかけも楽しいですねえ。

私が一番追っかけた映画は『ワイルド・バンチ』で多分映画館で10回観ています。

『バンド・ワゴン』は、映画館では2回ほどしか観ていません。

一番好きなのは何と言ってもDancing in the darkですね。

私もこの映画をスクリーンで観たのは結構後で、1987年の事です。
ミネリの作品にありがちな「重さ」が少ないのが良いですね。

振付けのマイケル・キッドがアステアと組んだのは本作だけのようですね。

ボースン
2011年6月1日0:22

「おっかけ」は至福ですね。新作映画ならともかく、昔の映画だとなかなか「おっかけ」る機会すら与えてもらえないことが多いので。「午前十時」の全国展開はバンザイです。

五月六月の勤務シフトを、映画館の予定表と首っ引きで作成した私…(爆)

>振付けのマイケル・キッドがアステアと組んだのは本作だけのようですね。

そうですね。もともとあまりアステアとはイメージ合わない、モダン(当時としての)な振付家だと思います。それでも、意外さが楽しさにつながる仕上がりにはなってるので私としては十分満足、アステアでハードボイルド探偵スタイルなんか、そのありえなさがほんとに楽しいじゃないですか(笑)
結構渋いですよ♪

nophoto
なにわすずめ
2011年6月1日0:53

チャリシーは体全身が脚に見えるほど脚の表情がゴージャスですよね。
この人がどんなにセクシーなダンスを見せても、不思議とあまり色っぽくないのは、彼女の体にも動きにも余分な贅肉が無いからなんだろうと思います。
野生の獣の美しさに近いのかも・・・?
最近、「Party Girls」の一部を見ましたが、内容的にも彼女にぴったりでしたよ。アニマルプリントの衣装で踊るとすばらしかったです。

ボースン
2011年6月1日6:27

>この人がどんなにセクシーなダンスを見せても、不思議とあまり色っぽくないのは、彼女の体にも動きにも余分な贅肉が無いからなんだろうと思います。
>野生の獣の美しさに近いのかも・・・?

なんというか、ルックスも踊りも非常に硬質な味わいがありますね。
もともとバレリーナだからということもあるのかもしれません…
野性的といえば野性的なんですが熱くないのが不思議(^^;)

nophoto
たけだ
2011年6月1日17:00

ボースン様は、On your toesは、ご覧になっています?

もともとはアステア主演の映画として構想されたものですが、1936年にブロードウェイミュージカルになり、1939年には映画化されています(オコナー出演しています)。

『踊らん哉』、On your toes,『バンド・ワゴン』って同じ(ような)お話ですよね。

ボースン
2011年6月1日23:09

On your toes は見ていません。オコナーはまだかなり子どもの頃なんでしょうね。
できあがった映画はバレエ寄りのミュージカルなのでしょうか?

>『踊らん哉』、On your toes,『バンド・ワゴン』って同じ(ような)お話ですよね。

ショーを成功させるとともに恋の勝利者に、という結末という点では、50年代はじめまでのミュージカルの多くがそういう構成なんじゃないでしょうか。バックステージ物が全体の何割なのかは調べてませんが
『踊らん哉』のアステアがバレエのソリストという設定は珍しくて笑いました。

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たけだ
2011年6月2日10:48

ボースン様

私が同じと言ったのは、ヴォードビルvs.クラシックバレエという意味です。

シド・チャリッスの『雨に唄えば』以前のミュージカル映画は、日本未公開が多いですね。
『ハーヴェイ・ガールズ』『雲流るるはてに』『ワーズ&ミュージック』と結構重要な作品です。
彼女の関連サイトではLEGSが有名ですが、OFFICIAL SITEも有りますね。

ボースン
2011年6月2日21:28

たけだ様

>私が同じと言ったのは、ヴォードビルvs.クラシックバレエという意味です。

失礼しました、なるほどそういう意味で同じということだったんですね。
ということは、On your toes でも、バレエ界からヴォードヴィル界へという人の動きがあるのでしょうか。

それだけ二つの世界が、今の我々が抱くイメージよりもずっと結構近い位置に(かつては)あったということなのかも…?

nophoto
たけだ
2011年6月3日9:41

ボースン様

私はOn your toesを見ていないのですが、ある資料によると、この作品が生まれた経緯をリチャード・ロジャースはその回想録で以下のように書いているとの事。
「以前からアステアのために曲を書きたいと思っていたので(中略)、どんな話が良いかという相談になった(中略)。アステアが有名になったのはボールルーム・ダンサーおよびタップ・ダンサーの二つの側面を通してのことであり、これとは違った分野での彼の才能が発揮出来る話があれば、彼は乗ってくるだろうと考えた。」「ヴォードビルの芸人だった男がクラシック・バレエ団と一緒に仕事をすることになり、モダン・バレエのための曲を書き、その上演に加わるという話を思いついた」「アステアはバレエ団のグラマラスなバレリーナにいったん恋をするが、最後は本当に愛する娘の元に戻るというラブストーリーも絡めた。」

蛇足:
1983年にナタリア・マカロヴァを主役のバレリーナに据えてブロードウェイ・リヴァイバルがなされた。
1994年、シュトゥットガルト・バレエ団による東京公演が行われた。経営難に落ちいいっていた同バレエ団はこの演目のヒットで息を吹き返した。

ボースン
2011年6月3日22:56

ああ、リチャード・ロジャースだったんですか。
てんで調べると"Slaughter on Tenth Avenue"(私は"Words & Music"の中で見ました)って、もともとは"On your toes"のナンバーだったんですか。

うーん…アレをアステアに踊ってもらう企画だったのかしら。ジーン・ケリーの方が文句なく合っている気がしますけど…
逆に"Girl Hunt Ballet"をケリーが踊ってたら当たり前すぎてつまらないかな(笑)

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たけだ
2011年6月4日8:58

ボースン様

Slaughter on Tenth Avenueは、最初から有ったようなので、アステアに踊ってもらう企画だったと思います。

最終的には、ファンは、トップハットに燕尾服姿の彼でないと満足しないと考えたアステアはこの話を断ったようです。
初演の舞台でこの曲を降り付けたのがジョージ・バランシン。

ベンチャーズの演奏でミュージカルに縁のない人たちにも有名になった曲ですね。

ボースン
2011年6月4日22:24

たけだ様

>最終的には、ファンは、トップハットに燕尾服姿の彼でないと満足しないと考えたアステアはこの話を断ったようです。

個人的には、それ正解だと思います(まだ30年代のことですし)。
黒シャツ白タイのハードボイルドスーツは許せるけど、街のチンピラファッションはやっぱ私もイヤですね(笑)

>ベンチャーズの演奏でミュージカルに縁のない人たちにも有名になった曲ですね。

なるほど、そうなんですか。←ミュージカルと映画音楽は好きだけど洋楽にはあまり縁のない人(笑)

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なにわすずめ
2011年6月17日16:24

紆余曲折の果てに土壇場で空き時間確保、綱渡り的な移動の末、5分前にコヤの座席に滑り込みセーフ、よーやくスクリーンで見れました(汗)
平日でしたが、それでも100人くらいお客さんが入っていたかな。

映画は、ヤッパリ、映画館で見るモンですね。今日もそれを激しく実感しました。
なんなのかな、DVDやTVでは伝わらないものって・・・・。
むしろ、デジタル処理されたDVDのほうが画像はクリアなのかもしれませんが、
映画館のスクリーンからは、役者の体温が伝わってきますね。
とくに、こういう昔の映画こそ、映画館で見るべきではないでしょうか・・。

ダンスシーンはもちろんですし、どの場面も面白く楽しめましたが、私がヒソカに好きなのは、ゲームセンターに登場する、なかなか開いてくれないマジックボックスが、華々しく展開する場面。

それから、いつも、あの「卵」は何?・・・と、笑ってしまいます。(初日の舞台が散々だったのを示唆する場面の、絵画)あれって、深い意味があるのでしょうか?

ボースン
2011年6月17日19:37

よかったですね!やはりスクリーンで見るとひとあじ違いますよ。

>それから、いつも、あの「卵」は何?・・・と、笑ってしまいます。(初日の舞台が散々だったのを示唆する場面の、絵画)あれって、深い意味があるのでしょうか?

「卵」ですね。孵化できなかった卵、って感じでしょうか?深いようなそのまんまなような(笑)

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なにわすずめ
2011年6月17日22:02

コメント書き終わってから、もしかしたらと思い、「バンドワゴン 卵」で検索してみたらば、「へ~っ」ていう情報がけっこうありました。
(「横たわる卵」って、そういう意味だったのかと、一つ賢くなりました)
あの卵が気になっていた人は、私だけではなかったようです(笑)
でも、日本人にはわかりにくいですよね。

ボースン
2011年6月18日23:46

なるほど、英語人種にはもうすこしストンとわかるモノなんですね。まあ、あの妙な脱力感のあるBGMだけで、ある程度言いたいことは分かりますが(笑)

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