1940年、アルフレッド・ヒッチコック監督作品。モノクロ。BS録画で視聴。

米国の新聞記者ジョーンズ(ジョエル・マクリー)は、海外特派員として戦争の気配漂う欧州へ派遣される。まずはロンドンで、"世界平和党"の党首フィッシャー(ハーバート・マーシャル)のパーティでオランダの外交官ヴァン・メーア(アルバート・バッサーマン)の取材を試みるが、彼はどこかに消えてしまう。アムステルダムで再度のチャンス、と思いきや、ジョーンズの目の前で暗殺者に撃たれるヴァン・メーア…が、実は暗殺は見せ掛けで、彼は外交上の機密情報を求める謎の組織に拉致されていた。フィッシャーの娘キャロル(ラレイン・デイ)に助けられつつ、ジョーンズは、身の危険にも臆せず陰謀の真相に迫るが…。

小雨の中、傘の海を押し分けての暗殺者追跡、カーチェイス、風車小屋でのかくれんぼ…最後は撃ち落とされた飛行機が着水、と、様々に趣向を凝らしたアクションシーンのつまった、派手目のスパイ・サスペンス。時局的エンディングのせいか、世界的大人気なヒッチコック作品の中ではトップクラスの評価とまではいかないようだが、私は好きだ。いや、ヒッチ作品もで一番好きな部類に入る(実はそんなに好きなわけではないの…ヒッチコックは)。

神格化されてるヒッチのどこが気に入らないと言われても説明は難しいのだが、どこか暗くてねちっとしたところがあるから…とでも言えばいいだろうか(勿論、ユーモラスな演出、小ネタを挙げるには事欠かないのだが…)。学生時代にある程度は積極的に見たのだが、そしてその時は楽しく見たような気がするのだが、今になってみると何故かヒッチコック映画というと気が進まない自分がいる。なぜかなあ…

だが、「海外特派員」に限っては、先に書いたようなアクション場面の華やかさと、キャストの良さでもって、今に至っても好感度が高いのだ(それに明るい…ご都合主義のおかげもあるだろうが)。
ジョエル・マクリーは、学者や事情通でなく「一般人の視点」を買われて選ばれたのに相応しい素朴で腕っ節もつよそうな二枚目ということで適役。だが、恋したヒロイン(ラレイン・デイ、適当にキリッと知的で可愛い)の父が実は…、という設定は重すぎて、真実を追うヒーローとしての彼には終盤ブレーキがかかってしまう。
そこで飛び出すのが記者仲間フォリオット役のジョージ・サンダース。主人公とは別方面から独自の推理で黒幕の正体に迫り、時にはペテンをかまして黒幕と駆け引き、時には熱血とアクション、そのバックには実は華麗な人脈(笑)…というフォリオットは儲け役で実にカッコイイ!
映画の後半は完全に彼がさらってしまう(私にとっては)。抜け目がなくて大胆で、重ったるい不思議な軽妙さを閃かせるジョージ・サンダースに、私、この映画で惚れました(^^;)
学生時代に見た時から、です。どこか胡散臭さがつきまとい、悪役も多い人ですが、「セイント」とか、キザで斜に構えたヒーローもいい味出してると思ってます~☆

あと、常にほのかなエレガンスを漂わせるハーバート・マーシャル。実はWW1の戦傷のため義足なのだそうだが、それでもふしぎと優雅さの漂う身のこなしがなかなか。コメディ・リリーフなもう一人の記者仲間ロバート・ベンチリーも手堅く可笑しいし、一見好人物な殺し屋エドマンド・グエンの味わい深い演技も忘れられない。

ヒッチ作品では「レベッカ」にも出ているサンダース。あの名作(一応オスカー取ってるし)で、一番印象深く覚えているシーンが、チキンを勝手に取って食べながらジョーン・フォンティンをからかうサンダースっていう私ってバカ?いや、ミーハーです。
もう一度、ジョージ・サンダースのカッコイイとこ「海外特派員」で見たい…!と、思ってたんですよね。ダビング有難うございました、なにわすずめ様!(私信モード)

あーっ、やっぱり!楽しかったです(*^^*)

コメント

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たけだ
2011年1月10日1:07

ボースン様

ヒチコックってやはり変態ですからねえ、暗いですよ。
特に50年代以降の作品は、その傾向が強いですね。
この作品は私も結構好きですね。
最後の墜落した飛行機の中に海水が浸入するところは、すごい。
撮影は失敗の許されない一発勝負だったとか...。

沢山の黒いこうもり傘の場面とか風車小屋や水車小屋のアクションも面白い。

うーん、今列記して思いつきましたが、この作品は円のヴァリエーションの豊かな作品ですね。

50年代の作品では『ハリーの災難』が比較的明るい?作品ですね。
シャーリー・マクレーンもまだ可愛かったし。

ボースン
2011年1月10日1:43

ヒッチコックってやっぱり変態ですか!
たけだ様にそう言っていただけると実に、ホッとします(^^;)

まあ暗くて変態でも、「めまい」は例外的に好きな一本ですが…。あの歪んだ妄執愛とキム・ノヴァクの美しさが私好みで。デ・パルマの「愛のメモリー」も結構好き、というと、ネタ的に好みだということでわかっていただけるでしょう(笑)

>50年代の作品では『ハリーの災難』が比較的明るい?作品ですね。
>シャーリー・マクレーンもまだ可愛かったし。

オススメありがとうございます。
マクレーンはちょい苦手なので(実は未見)、今後のヒッチコック予定は「バルカン超特急」。
学生時代に見て以来ですが、これも割と明るかったような?コレが見たいというよりは実は「ミュンヘンへの夜行列車」を見る前の予習(笑)
もちろん、レックス・ハリスン目当てです(爆)

nophoto
たけだ
2011年1月10日2:43

ボースン様

そもそも芸術家は、変態というか、妄執が強い人類ですよね。
妄執と商業主義のバランスを上手くとらないと食べていけないわけです。
妄執が勝ってしまうとゴッホや太宰治みたいな結果になるのだと思います。

ヒチコックの場合は、警官、卵、鳥(剥製)、階段、二重人格(人格の分裂)などへの妄執が強く、多くの作品に見られます。
『裏窓』なんかPeeping Tom以外の何者でもないですね。

晩年の『フレンジー』など久々に変態趣味が上手く描かれた傑作になっています。
イギリスの暗さの典型のような『血を吸うカメラ』も必見!!
この2作品ともに出演している女優がいますが分かりますよね?

秋林 瑞佳
2011年1月10日10:37

珍しい!ボースンさんがヒッチコック映画のことお書きになってる!

>どこか暗くて渋ーいところがあるから…とでも言えばいいだろうか
個人の資質(ヘンタイ)が大きいでしょうが、やっぱ英国人だしなあ~と思います。米国系のヘンタイより鬱々してるあたりが。米国系(現代映画)はカラっとしていますもの。ちなみに私、英国的ヘンタイが大好きです☆

ボースン
2011年1月10日15:33

>たけださま

まあ私は、基本ただのミーハーなので、芸術家でなくて職人芸が好きなのかもしれません(笑)
芸術家の感性をちょっぴり秘めた職人程度で…
そういうわけで?、ヒッチコックの中でも「フレンジー」はもう頭から忌避してまだ見てもいないんですね(笑)50年代までの作品は、キャスト面に魅力を感じるのですが(ケイリー・グラント、ジミー・スチュアート、グレゴリー・ペックなど…ただ、彼らの作品としてはヒッチ以外のもののほうが好きです)。
「血を吸うカメラ」もカルト人気らしいと聞いてはいるのですが見てもいません…で、ごめんなさい全く分かりませんです(爆)m(__)m

>秋林瑞佳さま

そうです珍しいんですよ!(笑)
前に日記で一度だけヒッチコック映画の話題が出た時は確か、「昔見た筈なのに完全に見たことを忘れていた」というオマヌケな話でした。<「知りすぎていた男」
しかも半分まで再見したところで、もういいやと投げてしまった私(笑)
「海外特派員」は、全く例外的です。

英国映画や英国系の映画人のほうがヘンタイのヒネリの角度が大きいんですよね。うまく合致すればそれはそれでOK、楽しめるのですが…
イーリング・コメディなどは大好きです。好きな人は英国系の俳優に多い気がするものの、当たり外れも大きいかなー(嫌いな時はより一層嫌い(笑))。

nophoto
たけだ
2011年1月10日16:26

私が一番好きでないヒチコック作品は『ロープ』ですね。
テクニックだけが先行していてユーモアも不足しているし、ファーリー・グレンジャーとジョン・ドールの二人の同性愛的演技もシツコイ。

ストーリーとしては、スチュワートの役を含めて同性愛三角関係のもつれで、スチュアートがグレンジャーとドールを罠に落として破滅させる、といった具合だと面白かったと思います。

ボースン
2011年1月11日0:24

「ロープ」もね、「知りすぎていた男」と同時期に劇場で見てるはずなんですが、全く思い出せないんですよ!(爆)
不思議なことにヒッチ作品についてはノーミソが妙な動きをしています。

>ストーリーとしては、スチュワートの役を含めて同性愛三角関係のもつれで、スチュアートがグレンジャーとドールを罠に落として破滅させる、といった具合だと面白かったと思います。


さすがにスチュワートに同性愛三角関係のもつれをやらせるのは不可能ではないかと思いますが、昨今ではそのくらいやらなきゃディープなミステリー映画は成立しないみたいですね(「デストラップ」とか…いや、未見なんですがそのうち見たいと思っておりますこの映画は)。

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たけだ
2011年1月11日1:28

ボースン様

実際におこった事件をもとにした原作戯曲には、スチュアートも同性愛者だと思わせる描写が有ったそうです。

この映画の製作当時は、同性愛の描写はタブーでしたし、スチュアートにそんな役を演じさせること等不可能だったと思います。

そこがこの作品の弱いところで、その弱さがテクニックの部分を引き立ててしまっているんだと思います。

そもそも『めまい』以外では、スチュアートはヒチコック的な役者ではないと思うのです。



ボースン
2011年1月12日21:54

>この映画の製作当時は、同性愛の描写はタブーでしたし、スチュアートにそんな役を演じさせること等不可能だったと思います。

スチュアートですしねー。
…グレンジャーやジョン・ドールくらいならいいんだ…(笑)

>そもそも『めまい』以外では、スチュアートはヒチコック的な役者ではないと思うのです。

ふーむ、そういう感じですか、三本も出ていても…。ヒッチコックの変態性(笑)のカモフラージュには適切な役者なのかもーという気はしますけどね(笑)

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たけだ
2011年1月12日22:41

ボースン様

確かに『裏窓』あ、スチュワートが主演であることで覗き趣味というヘンタイ性がカムフラージュされている部分が有りますね。

次の『知りすぎていた男』は、あるいみ全うなサスペンス。
最後の『めまい』でスチュワートにすらヘンタイ性が有ることを暴露したヒチコック、ということになるのか?

同時期にアンソニー・マンと西部劇で何度も組んでいますが、この経験がスチュワートの『めまい』での演技にずいぶん役立ったのではないかと想像します。

ボースン
2011年1月12日23:18

>次の『知りすぎていた男』は、あるいみ全うなサスペンス。

ドリス・デイとの鉄板健全コンビで、ヒッチコックにすらヘンタイ性をほとんど感じさせない映画がとれる、ということを主張したかった…、ということになるのか?(笑)

マンの映画は、そんなに網羅的には見ていませんが、たしかにちょっと西部劇としては妖しい何かがありますね。「ウィンチェスター銃73」はそれほど思わなかったけど、「ララミーから来た男」では牧場主が予知夢?を見ていたし(暴力シーンのサドっ気だけではなく)。

nophoto
さがみひいす
2011年10月9日22:04

海外特派員面白かったです!。フィッシャー親父さんに萌えました。ヒッチコック巧い!と。
が、ラストはヒチコックでもあの時代だとこうなのかと…
しょうがないですね。
ジョージ・サンダースは良かったです。ちゃんと観たのは初めてです。いい役でしたがそれだけじゃないぜ…て感じかな。
ジョエル・マクリーはおっしゃる通り「アメリカン」で、こちらは自分のイメージとチョイ違ってましが。

ボースン
2011年10月9日23:10

「海外特派員」面白かったですか~よかったです(*^^*)
ラストは、私はあれ許容範囲ギリギリセーフかな。元々特派員だからそんなに強引じゃないし。

nophoto
さがみひいす
2011年10月10日8:31

おはようございます。
追伸です。!!「サンダースさん」は何か雰囲気がある役者ですね。今度は「イブの総て」観ます。

ボースン
2011年10月10日22:52

「イヴの総て」は芸達者揃いなんでソンはないはずです!「サンダースさん」のイヤミ芸をご堪能ください♪

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