1947年、ノーマン・Z・マクロード監督作品。カラー。

大衆向け出版の編集者ウォルター・ミティ(ダニー・ケイ)は、母親(フェイ・ベインター)と二人暮らしの気弱な青年。上司にはアイデアを盗られ放題、毎日口うるさい母親の言うまま通勤途中は買い物に励み、母親の友人の娘(アン・ラザフォード)と婚約中だがイマイチ尊重されていないような…(彼女のペット犬と比べても扱いがビミョー)。冴えない日常のせいか、仕事で読みまくる娯楽小説類の影響か、何かにつけて白昼夢に捕らわれる癖がある。

空想の中のウォルターは嵐と戦う船長だったり天才外科医だったり撃墜王だったり、常に英雄的で洒落者で、傍にはウットリ彼を見つめる美女(ヴァージニア・メイヨ)がいる。ところがある日、夢の美女にそっくりなロザリンド(メイヨ)に出会って以来、ウォルターは妙な事件に巻き込まれる。怪しい組織に狙われている彼女と伯父を、ウォルターは助けることが出来るのか?

最初は逃げ腰だった主人公が、次第に肚が座ってきて彼女のためにと頑張り始めるのだが、組織に捕まり「美女も陰謀も白昼夢の中だけの存在だったのだ」と騙されそうになるクライマックスがいい。空想と現実の入り混じる話というのは基本的に大好きで、点も甘くなりがちな私なのだが(「パリで一緒に」や「おかしなおかしな大冒険」もTVでだが複数回見ている)、空想と現実の入り混じる演出を、逆に必然性のあるものと感じさせる可笑しくて巧妙なシナリオ展開だ(序盤のロザリンドの行動は、ちょっとわかりにくいが)。
そんな陥れられ方をした後でもなお、真相に気づいて再度敵のアジトに駆けつける主人公が、信号待ち中にまたまた空想の中で西部劇ヒーローになってたりするのがまたイイですね。空想してる場合じゃないってのに(笑)。筋金入りの空想家。素敵だ。

敵側では組織のボスより、部下のボリス・カーロフが、ドクターと称するだけに知的で目立つ。メイヨはまあ特にどうということも。母親役ベインターの方が印象に残りました。結構溺愛してるんだけど結果的に支配しちゃってる母親、深刻にもなりうるだろうが軽く描いてる。

ダニー・ケイは、ままならぬ日々に憂い顔なのが可愛かった。白昼夢の中では二曲ほど歌って芸達者を披露。そして特に"Symphony For an Unstrung Tongue (The Little Fiddle)"は、東欧訛(ユダヤ訛?)の偏屈教授カリカチュアと思ったら楽器の恋物語の歌で「その正体はグロッケンシュピール!」のくだりにはわけもなくバカ受けしました。なぜグロッケンシュピール!!名前がぎょうぎょうしいからかしら。コレといいフランス人ぽくまくしたてる"Anatole of Paris"といい、やはりこの人は基本「口の芸人」だなーとも再認識。全身を使う芸ではないんですね。作品によってはもっと体使って踊っているのかもしれないけど。
ただ、面白いのは面白いけど、どアップを多用しすぎるのは芸の見せ方としてはクドい気もします。ぼけーとただ憂い顔で車運転してる時のほうが魅力があるような気も…(爆)

図書館のVHSで視聴。画像がかなりボワワンと滲んできていたので、カラー撮影の美しさで知られたこの映画は、レンタルでもいいからDVDで見たほうがよかったのかもしれません。
実は同時に予約した「ヒット・パレード」も借りているのですが、ケイが2本続いておなか一杯になったので、いつでもタダなんだし一度返して間を空けよう。「ヒット・パレード」は「教授と美女」のリメイクのようだから期待できそうな気はするんですが。

ケイの芸よりシナリオのうまさで★4。

コメント

nophoto
なにわすずめ
2010年6月7日18:13

おお、ついにご覧になったんですね。私は、まだ図書館に取り置き中なので早く行かねば。見終わったら、あらためてコメントつけますが、そうか・・・やはりVHSでは、本来の色が出てくれませんか・・・写真のジュネス企画のDVDの映像が果たしてどの程度なのか怪しいですが、これ、海外版もたしか品薄だったかも。
ところで、ウオルター・ミティは、なんで妄想するときに、「ぽけた・・ぽけた・・・」って言うんでしょうね(笑)(原作でもそう言ってる)

最近の映画ですが「アメリ」の中でも、主人公アメリが、ぶっとんだ空想する場面があって、そこだけはよく覚えてます。空想壁のある主人公の作品は、確かに面白いですね。

ボースン
2010年6月7日20:09

いやー、カラフル感はあるのですがいささか全体に、にじんでぼけた感じがするのです。まあ古いVHSに、時々ありますよね(TV録画のように雨は降ってません)。そのぶんダニー・ケイがより若々しく見えてるので良いのかもしれませんが(笑)
ジュネスの画質がそう良くないことが多いと言っても、さすがにもう少しは鮮明な筈だろうと思います。

>ところで、ウオルター・ミティは、なんで妄想するときに、「ぽけた・・ぽけた・・・」って言うんでしょうね

魔法の呪文なんですかね「ぽけた・・ぽけた・・・」?妄想にもフシギな一貫性が(笑)

>最近の映画ですが「アメリ」の中でも、主人公アメリが、ぶっとんだ空想する場面があって、そこだけはよく覚えてます。

ミュージカルでも「主人公の空想」をひとつのナンバーにすることが多く、楽しいですよね。めいっぱいに空想、妄想、映画ならではです。

nophoto
なおみ
2010年6月8日8:44

映画の話はわからなくて恐縮ですが:
「グロッケンシュピール」は、いわゆる「コンサート用鉄琴」ではないのでは?
ドイツの大き目の街では、昔から人の集まる場所の高いところ(役所の正面、広場に立てたポールの上など)に設けられていて、教会の鐘と並んで定時の自動演奏で強制的に街中が親しんでいます。旧東独のドレスデンにもありました。東欧設定なら「らしい」選択なんじゃないかと思ったんですが~。

ボースン
2010年6月8日9:19

こんにちわ。コンサート用でないグロッケンシュピール、ドイツではそんな形でも親しまれてるんですね。今回日記書く時調べていたら、鍵盤型のグロッケンシュピールもあったとかききますし、意外と奥の深い楽器なんだ…。
ヨーロッパ、また行きたいです…

ちなみにこの歌、バイオリン娘(The Little Fiddle)が散歩していると(!)色男のトランペットに言い寄られて、でも後見人のフレンチホルンに邪魔されるんだけど、実はその正体は12もの楽器を殺害してきた凶悪犯グロッケンシュピールの変装だった!(笑)と分かって無事結婚式、というワケワカラン筋書きを、各楽器にクラシックの有名曲の1節をあてがって進行するという実に珍妙な力作でした。
youtube.com/watch?v=F-M1F8hVfjM で検索するとYouTubeでこの歌が見れますが、訛りが凄いので字幕なしだと辛いですが(笑)雰囲気はわかるかと思います。

なんにしてもグロッケンシュピールてのは、基本的に偉そうなんですね(笑)ありがとうございました♪

nophoto
なにわすずめ
2010年6月27日17:06

こんにちは。
ダニー・ケイが、ニューヨークフィルの指揮をしている動画を最近知って、You Tubeで見ましたが、私が最近見た動画の中ではイチオシです。かなり笑えます。
彼が70才近くなってからの映像ですが、この人は、年をとってからのほうがいいかも。まったく衰えていませんし、アクも適度に抜けてます(笑い)。どれも一見の価値ありですが、「アイーダ」は特に笑えます。

ボースン
2010年6月27日18:48

"Symphony For an Unstrung Tongue (The Little Fiddle)"は、ヘンな音楽教授のスケッチですから、ギャグ入りの指揮まですぐソコですね。

>まったく衰えていませんし、

50年代に、歌に踊りに笑いにと活躍した人たちって、本人の芸の力が衰えてというよりも60年代以降の映画業界の風向きの変化に伴って、銀幕から急に消えていった気がします。
YouTubeを見るたび悔しく思ったりまだココで見れるなんてと嬉しく思ったり、複雑です(苦笑)

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