1943年、オットー・プレミンジャー監督作品。

ニューヨークの有名コラムニスト、ライデッカー(クリフトン・ウェッブ)のもとに、「美貌のキャリアウーマン・ローラが散弾銃で顔を吹き飛ばされ殺害された事件について聞きたい」と、刑事マーク(ダナ・アンドリュース)がやってくる。凝りに凝ったインテリアの中、ライデッカーは“自分が育て上げた”ローラ(ジーン・ティアニー)との出会いを熱く語り、捜査にもなるべく同行させてほしいと申し出る。彼女はプレイボーイな婚約者シェルビー(ヴィンセント・プライス)との仲を悩んでいたらしい…。ローラの叔母(ジュディス・アンダーソン)も彼に貢いでいた気配がある。
ローラの高級アパートで、美しい彼女の肖像画を見上げるうちに、ハードボイルドな捜査官マークもまた、死んだはずの彼女に惹かれ始める。捜査は難航するが、ある日…

かきくどくような、ムードたっぷりの音楽、そしてモノクロなのがかえって美しく印象深い映像のマジック。撮影賞(白黒)でオスカー取ったのも納得。
死んだ女をめぐる、ちょっと普通でないラブ=ミステリーだが、ポンポンと意外な展開を重ねてゆく語り口にも魅せられる。凶器に関する伏線の張り方には特に感心。個性豊かな登場人物たちの描き方も工夫が感じられて結構。序盤で刑事を招き入れるライデッカーが風呂に入ってるのなんか凄いですよね。書斎に特製の浴槽(タイプライターを載せる台付き)を置いて裸で執筆中…。お出かけ時にはボタンホールに花を欠かさない洒落者なのだが、彼の金持ちマイペースぶりと同時に、裸にムくことで男性としての貧弱さ(シェルビーやマークと比べて)を観客にさらりと印象付け、なんとも意地悪くて上手い。

ティアニー、アンドリュース、ウェッブ、プライス、アンダーソン、ハッキリいって主要キャストの誰にも私は関心がない(好みでない)のだが、最後まで面白く鑑賞できた。FOXの正規盤=特別版二枚組を買ったので解説音声トラックもあるのだが、そちらも視聴後結構楽しく聞いた(二種類もあるので全部はさすがにまだ聞けていないが)。
最初のローラ候補はジェニファー・ジョーンズだったそうな。ライデッカー役候補には一時ジョージ・サンダースも上がってたという。なるほど、いいなぁサンダース(割と好き。またライデッカー役は「イブの総て」のアディソン・デ・ウィットにも通じるところのあるキャラだ)。でも、キャスティングとしてはウェッブのほうが適正だろう。サンダースは体格が立派すぎる。

解説音声で触れられた「第一稿を読んだザナックのツッコミ」が、モノ凄く的を射ているのにも感心した。ライデッカーは一番よく書けているがセリフに更なるキレとウィットを足せ、ローラはしょーもない男に引っかかる馬鹿に見える、これじゃ一流女優を当てられない、シェルビーをもっと魅力的な男にすることでバランスを取れ、うんぬんかんぬん…。完成した映画はザナックの意見に合わせて手直し済の筈だが、それでも私は「ローラって馬鹿?」って思ったもんなぁ。

実は特典映像のティアニー・バイオグラフィに御贔屓リチャード・ウィドマーク様がちょっぴり出てると聞いたのが、レンタルやワンコインDVDでなく特別版を購入した理由であった。とはいえ、映画自体の出来にも満足。
オークションで定価よりはずっとお安く買えたし、八方満足の映画であった。

コメント

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なにわすずめ
2009年9月29日0:44

なんと、このDVDの特典映像にウィドマーク様が入ってるの?
私、まだ、特典の方見てなかった!!
ちょっと、得した気分・・・・・
本編は、こないだ一度見たきりですが、もう一度のんびりしたときに見ますので、今回はコメントを控えます。

ボースン
2009年9月29日1:04

ハイ、コレの特典映像内ですよ。まっ先にジーン・ティアニー・バイオグラフィ見て、ひと月以上たってから本編を見る私…(笑)
一時間のバイオグラフィの中に2,3か所だけですけどねウィドマーク様。
以前この日記のコメントのやり取りの中で書いて(確認すると7/10の分ですね)、ついでにYouTubeにも出てるみたいだとお知らせしたぶんですから、もう既に見てしまっている内容なのでは…
まあ、YouTubeで見るより当然画像はいいですし字幕もありますけれども。

ヴィンセント・プライスのバイオグラフィもあるんだよねえ…こっちまで見るのはいつになるやら。

nophoto
たけだ
2009年9月29日6:01

別サイトにも書きましたがやっぱり傑作だと思います。
傑作になった理由はいくつもあるでしょうが、やはり先ずA級として製作されたことでしょう。予算は約90万ドルで超大作ではありませんが当時としてはかなりの製作費です。
監督は、最初はマムーリアンですし、ローラ役にはディートリッヒも候補に挙がっていたようですからザナックの意図は明らかでしょう。
次に、監督、撮影、音楽という超重要なスタッフにとってこの作品はビッグチャンスであったということでしょう。
プレミンジャーは何年も監督を禁止されていたところマムーリアンの降板で久々の監督。ラシェルはカメラオペレーターから一本立ちした直後、ラスキンも映画一本全体の音楽を担当するのは本作が初めてだったと思います。
だから3人とも力が入っていたと思います。

原作では凶器はウォルドの杖に仕込まれていることなどから彼は明らかに性的不能者ですね。だからローラが他の男に取られるのが余計許せないわけですし。
「締まった体つきの男に安易に惹かれる弱点がある」みたいなことを繰り返しローラに言うのも肉体的欠陥から来るジェラシーですね。

ローラとマークが出会うまではフィルムノワール、それ以降はロマンチックミステリーというハイブリッド?作品です。

ティアニー、ジーン・セバーグ、ヴィヴィアン・リーなど私の好きな女優には精神を病んでしまう傾向があるようで・・・・。

リチャード・コンテやホセ・ファーラーがお好きならばティアニーがこの二人と共演した日本未公開のプレミンジャー作品について書き込みますが?

ボースン
2009年9月29日8:53

いや、よくできていましたよね。感情移入できるキャラクターはほとんどいなかったのですが、人物描写とプロットと両方しっかりしているので文句なしの楽しさです。

>監督は、最初はマムーリアンですし、ローラ役にはディートリッヒも候補に挙がっていたようですからザナックの意図は明らかでしょう。

そうですね、積極的に関与していますね。A級だからこそですね。それにしても監督禁止というのはプレミンジャーと一体どういう喧嘩をしたんですかねえ…以前ザナックの伝記は読みましたがよく覚えていません(笑)

>リチャード・コンテやホセ・ファーラーがお好きならばティアニーがこの二人と共演した日本未公開のプレミンジャー作品について書き込みますが?

2人ともまともに見ていないので(特にコンテは皆無。ファーラーはワキで出てる作品をいくつか見てる筈なんですが印象になし)、気の利いたコメント返しは出来そうにもないですが、やはりフィルム・ノワール的な作品なのでしょうか。
「折れた槍」が結構好きなので、コンテの「他人の家」はいつか見たいなと思っていますが、日本版のDVDは出てないようですし、彼と出会える日はまだまだ先でしょうね(笑)。
結局役者で見る傾向が強いので、私の映画知識には、書物上で知っていても実際に見たことあるかと言われるとポッカリ穴があいた部分が結構あります(笑)

nophoto
たけだ
2009年9月29日9:21

ティアニーが盗癖のある人妻を演じる(コンテはその夫、ファーラーは悪役)一種の心理スリラーです。
まあ日本未公開なのは当然かも、という出来なのでボースン様がコンテと出会う時まで保留しましょう。

ボースン
2009年9月29日9:34

なるほど盗癖ですか。ティアニーは「哀愁の湖」でもニューロティックな役を演じたんですよね(未見ですが)。どこかあさってを見ているような遠い瞳のせいでしょうか。

nophoto
たけだ
2009年9月29日19:57

ボースン様

プレミンジャーが干された理由ですが、特典コメントでも語られていたように記憶していますが1938年度の大作Kidnapped(ロバート・スティーブンソンの『誘拐されて』)の製作中に脚本兼製作総指揮のザナックと「脚本どおりに撮影していない/している」で大げんかをしたことのようですね。ザナックはかなり立腹してプレミンジャーの事務所を敷地の外れに移したり、かなり徹底的に敵対したようです。
プレミンジャーの癇癪は、このころから有名だったらしいです。


ボースン
2009年9月29日20:39

特典、全部は見てないんですよね~あんまりいっぱいあるから(笑)
ありがとうございます。

nophoto
オショーネシー
2009年9月29日22:06

「スタジオクラシック」シリーズの中で、何故か特典映像いっぱいの1枚でしたね。
再版のシリーズで特典映像を増やしていってますが、初期のシリーズで特典映像満載なのは、この1枚っきりなんですよ。
ジーン・ティアニーはフォックスに貢献した人ですが、ウィドマーク氏も大変貢献した方なので、ここは亡くなったことですし、ウィドマーク氏の新しい映画をシリーズに入れて、特典映像をつけてもらいたいところですね。
映画は大変面白く、大好きな作品です。
ライデッカー氏演じるクリフトン・ウエッブの尊大さ加減が好きですね。

ボースン
2009年9月29日22:49

>ウィドマーク氏の新しい映画をシリーズに入れて、特典映像をつけてもらいたいところですね。

まったくです。実際、ティアニー・バイオグラフィと同じ体裁のバイオグラフィ(BFI製のもの)が既に存在するので、その気になれば出せるんでしょうにねえ。
浮いた噂ひとつない愛妻家だし、ティアニーみたいなドラマチックなものにはならないのですが、嘘みたいな美幼児写真とか入ってました(笑)
実は米国盤「地獄と高潮」には収録されていて、私も持っているんですが、日本語字幕付きで出たらやっぱり買っちゃいますよ!

>ライデッカー氏演じるクリフトン・ウエッブの尊大さ加減が好きですね。

ウェッブ好演でしたね。一番キャラが立ってるというか、ちょっと現実離れしたこの話を、彼の存在感がガッチリ支えている感じ。

nophoto
なにわすずめ
2009年9月29日22:53

オショーネシー様、いいことおっしゃる、ほんとですーーー!!
Fox、わかってませんね。本家本元なのに、ウィドマーク様の初期のいい作品をあまりにも軽視してますよ。本家がやってくれない分、スペインやイギリス、フランスなど、ヨーロッパの方が熱心にウィドマーク様DVDを制作してます。
アカデミー賞受賞作ばかりを、何度もDVDの仕様を変えて発売しなくていいから、
もっと、隠れた名作を発掘・制作してほしいものですね。
紀伊国屋、ここらで一つ、ウィドマークボックスの一つでも企画してくれたら、
プロパーでも買いますよ!!
ウィドマーク様の特典映像やスチル欲しさにDVDを選ぶのに迷いまくるなにわすずめでした。(爆)

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