1985年、ウディ・アレン監督作品。

ウディ・アレン作品、特に大物扱いされだしてからはあまり性に合わず見ていないのだが(そもそも80年代後半から新作映画はろくに見なくなった)、「カイロ…」は大好きな「ラムの大通り」に一脈通じるファンタジー・コメディと聞いたのでトライ。つまり、映画ファンの心と映画の力、というテーマね。

大不況まっただ中の30年代、ニュージャージーの小さな町。失業中の夫(博打、浮気、DVと三拍子揃ってる)にかわって働くセシリア(ミア・ファロー)は大の映画ファン。銀幕に見入る間は全ての憂さから解放されるが、ある日映画館で「カイロの紫のバラ」なるロマンス映画を見ていると、とんでもない出来事が。
登場人物の一人である二枚目探検家トム(ジェフ・ダニエルズ)が『キミ、五回も見に来てくれたんだね!嬉しいよ!』とスクリーンから現実世界に飛び出してきてしまったのだ。トムはセシリアを映画館から連れ出すと熱く求愛する。当然残りの登場人物たちも、どう話を進めていいか困って右往左往、観客は文句を言うし、進行しない映画に映画館主もプロデューサーも頭を抱える。トムを演じた俳優ギル(これもジェフ・ダニエルズ)も、イメージダウンになっては大変と飛んでくるが、セシリアの純情さにやはり心を打たれて奇妙な三角関係が発生する。夫(ダニー・アイエロ)を入れれば四角関係か。
気弱な人妻セシリアは困惑しつつもウットリな嵐の数日間を送ることに。とはいえ、トムは夢のようにロマンチックで誠実で魅力的だが、「リアル」ではないトムの財布から出るお金はすべて作り物、現実世界の常識も知らない。
そして、ギルもまたセシリアにとって「リアル」なのかというと…

オープニングのクレジット・タイトル(黒字に小さな白抜き文字のみ、アレンらしいシンプルさ)は、フレッド・アステアの歌う「チーク・トゥ・チーク」にのせてのスタート。おぅ、いきなりこう来ますか。アステアファンの私はこれだけでもニヤリ。映画の持つ「夢の力」の代表格として選ぶには、やはり、深さはなくとも抗いがたいダンス・マジックに溢れるアステア=ロジャース映画は正解でしょう。
そして全編バックに流れる軽やかなピアノ。時代はもちろんトーキーなのだがサイレント映画を思わせるイメージで、物語の作りものっぽさをいい意味で支えていると思う。
ミア・ファローは元々冴えない女性を演じるのはお手の物だが、見事な映画ファンっぷりもよろしい。スクリーンに見入る表情、そしてお仕事中にも映画の話をしだすと関連情報が次々と口からダダ漏れ、相手がもはや聞いていなくても…(笑)
非常に納得の描写である。

あと、映画中映画「カイロ…」の冒頭に“主役の友達”役で登場するジョン・ウッド(多分)、エドワード・エヴェレット・ホートンに激似でたまげました。これは凄い!ホートンはルビッチ映画やアステア=ロジャース映画の脇役常連だったオジサンです。
RKOのラジオ塔マーク直後にこの面構えを見ると、30年代ぽさ全開です。わはは。

ほろ苦く、けれども夢の力にあふれたエンディングは予定調和の世界。
けっこういい感じでした。細部が丁寧。

…でも、「ラムの大通り」の方が更に上をいくと思うな(★は3.5だがアステアでおまけ)。
「カイロ…」が気に入る人は、是非とも機会があれば「ラム…」を見てほしいですね☆
(過去日記参照http://13374.diarynote.jp/200804281734160000/)
アレは予定調和を更に超えた何かを感じます。非現実的な出来事は盛り込んでいないのに。
そして音楽がまた素晴らしいし…♪

コメント

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たけだ
2009年9月19日19:06

今晩は

ウッディ・アレンは、昔のバカやっていた頃の方が好きですね。
ゴードン・ウィリス(ゴッドファーザー3部作)という名カメラマンと組んだ第一作である『アニー・ホール』から妙に知的な映画を作るようになってしまいました。
私はダイアン・キートンが好きでないことと、いかにもアカデミー賞が物欲しげな内容だったので「何がアニー・ホールだxxx(自粛)-holeだろう」と思っていました。

『ラムの大通り』は、ヴァンチュラは良いのですが、バルドーがちょっと・・・・。

ボースン
2009年9月19日20:45

たけだ様こんばんわ!

>ウッディ・アレンは、昔のバカやっていた頃の方が好きですね。

そうそう、「カジノ・ロワイヤル」みたいなので十分です(笑)
…「マンハッタン」くらいが最後で、あと一切見ていない私。
「カイロ…」は妙なインテリ臭を出さず綺麗にコンパクトにまとめたコメディなので楽しめましたが。

>『ラムの大通り』は、ヴァンチュラは良いのですが、バルドーがちょっと・・・・。

私もバルドーには魅力を感じなくてあまり作品見てませんし、年齢的には旬もすぎているのでしょうが、「ラムの大通り」のヒロインは結構記号的な存在なので、「BB」のブランドにあの圧倒的な音楽をまとえばそう不満は感じませんでした。
ヴァンチュラは、とにかく良かった…!(笑)

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オショーネシー
2009年9月19日22:35

この映画でアステアファンになった私には、お気に入りの映画です。
とにかく、冒頭の「チーク・トゥ・チーク」の歌にやられ、最後の
ダンスにやられた私。
早速アステア=ロジャース3本映画(「ヒンチネンタル」「トップハット」「有頂天時代」)がやってきたので、迷わず前売り券買って見に行った思いでが蘇ります。

ボースン
2009年9月19日23:17

こんばんわ、オショーネシーさま!

>この映画でアステアファンになった私には、お気に入りの映画です。

アステア様のパワーで作品に説得力が出ましたよね(笑)
映画中映画「カイロ…」がRKO製なのがなんとも嬉しいです。
そしてあの脇役氏、ホートンにそっくりですよねーーー!と言いたいけど、コレを見てからアステア=ロジャース映画を追うようになったのでしたら意識に残っていませんでしょうか。絶対「狙ってる!」と思うんですが私。
「プロデューサーズ」のゲイ演出家がジャック・ブキャナン風だ!と思った時以来の感動です(笑)

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たけだ
2009年9月19日23:52

こんばんは

最近「アステア&ロジャースGOLDEN BOX」を買いました。
でも5本しか納められていないんですよね。
海外ではちゃんと全共演作が入ったボックスが販売されているのにこの中途半端さは何なのでしょう。

愚痴はともかく、オショネシーさんは劇場でアステア/ロジャースを見ておられるようですので、もしMGM時代の作品も劇場で御覧になっているのならお尋ねしたいのですがアステアのRKO時代の作品とMGM時代の作品間での大きな違いは何だとお考えですか?

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オショーネシー
2009年9月20日21:22

>ボースン様
なにせロードショウ公開以来観ていなかったので、久々に観てみました。
あ~…いましたねぇ。ホートン氏に雰囲気がそっくりな俳優さんが。
流石ウディ・アレン、細部にまで目を凝らしています。

>たけだ様
残念ながらMGM作品は劇場では観ていないんです。アステア映画に目覚めてから
公開された非品は、「コンチネンタル」「トップハット」「有頂天時代」だけなんですよね。是非「バンドワゴン」なんかを公開してくれたら…とも思いますが、
名画座がそもそも無くなっているので無理でしょうね。
私は意外とリタ・ヘイワースとのペアが好きなんですよ。

ボースン
2009年9月21日1:05

>たけだ様
>海外ではちゃんと全共演作が入ったボックスが販売されているのにこの中途半端さは

Boxというとアイ・ヴィー・シーのぶんですか?
アイ・ヴィー・シーというと高い、画質悪い、特典・字幕イマイチと三拍子揃っていますからねえ。とはいえ私の持ってるアステア=ロジャースDVDも皆アイ・ヴィー・シーの単発発売分ですが(オークションで昔八枚まとめ買いしました)(笑)

>オショーネシー様
ほんとうに、MGM時代のカラフルなアステア映画を大画面で見てみたいものですね!
それでも劇場で三本も見ておられるのは十分羨ましいです。私は自主上映(だから本当の映画館より小さめのスクリーン)でやっと「カッスル夫妻」「踊るニューヨーク」二本止まりです。

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たけだ
2009年9月21日14:34

オショーネシー様
そうですか、残念。
この3本は音響は、ドルビー化されていたのでしょうか。
『晴れて今宵は』は、結構面白かったですね。前年の『踊る結婚式』は、ちょっと情けない。

ボースン様
そうですIVCです。
正価なら手を出しませんが中古店でまあまあの値段だったので買っちゃいました。


ボースン
2009年9月21日20:22

>たけだ様

まことにIVCは、正価では手が出ませんです。
今なら海外盤も見据えて集めるところですが、…リージョンフリーなどという言葉も知らないウブな頃のお買い物でした(笑)

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だぶるえんだー
2009年9月22日21:58

この作品は見たことがないのですが、夢のある設定ですね。千年女優の逆パターンでしょうか。1930年代が背景なのですか!!案外、あの時代の方がファンタジーとは相性がいいかもしれませんね。

ボースン
2009年9月22日22:44

こんばんわ、だぶるえんだー様。

千年女優って知らないのですが、逆というと、映画の中に入る話とかなのでしょうか?「カイロ…」でも途中で一度ヒロインが映画の中に誘われて入って出てきたりはしますが…

現代より、戦中戦前のほうがきっと相性いいと私も思いますね。それに映画に対する人々の思い入れもずっと濃かったはずだし(他に娯楽の種類が少ないから…)。

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だぶるえんだー
2009年9月23日9:44

こういうファンタジー、1980年代が背景では上手くいかないだろう・・・・と、アレン監督も考えたのでしょうね。脚本次第でしょうけれど。

千年女優はなかなか楽しい作品ですよ。老女優の昔語りを通して、さまざまな映画(一部史実)の中に踏み込んでいくお話です。一風変わったつくりですが、とても充実した一作でした。お暇なときに目を通してみてください。

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たけだ
2009年9月23日11:11

映画と現実が互いに浸食し合うという作品の代表格として『キートンの探偵学入門』をあげたいですね。とても面白いしよく出来た作品です。

ボースン
2009年9月23日13:11

>だぶるえんだー様

>こういうファンタジー、1980年代が背景では上手くいかないだろう・・・・と、アレン監督も考えたのでしょうね。脚本次第でしょうけれど。

まあ、脚本次第でしょうねえ。映画というメディア自体の求心力は戦前の方が強いでしょう。
ただ、「ラスト・アクション・ヒーロー」も、スクリーンから映画の主人公(シュワルツネッガー)が飛び出してきて少年と冒険する話なのではなかったですか?最初の十分ほどしか見てないんですが。
「ダイ・ハード」みたいないかにもの刑事パニックアクションな映画中映画でスタートし、次に少年がオリヴィエのハムレットを学校で見せられたら彼の頭の中でハムレットがシュワちゃんになってしまい、王子様衣装でタバコをクールにふかしつつタフガイっぽく「このデンマークでは何かが腐っている」ってやらかしたのに爆笑して(「ハムレット」に実際にあるセリフがこうもハマるとは!)、これはいいかもと再放送時に録画しました(少ししたら出かける所だったので)。
…が、まだ見そびれてます…

中盤後半に入ってもこのノリが衰えてないよう祈ります(笑)

「千年女優」は、その後調べてみましたが、アニメなんですね?素材としては面白そうですがアニメは普段ほとんど見ないので見落としていました。日本映画にもうといし(それとも実在の日本映画はからまないのでしょうか)。
とりあえずタイトルを覚えておきます。(*^^*)

ボースン
2009年9月23日13:22

>たけだ様

キートンの探偵学、未見ですがたしか夢の中で名探偵になる話でしたっけ?
機会を見てトライしてみたいと思います。
元々、現実とフィクションが入り混じる設定って好きなので、「パリで一緒に」「おかしなおかしな大冒険」あたりも昔見ていますが、なかなか傑作とまで仕上がるものは少ないような…なかなか匙加減が難しいのでしょうね。

nophoto
たけだ
2009年9月23日16:17

ボースン様

キートンは気の弱い映写技師役で、映画の中に入っていく夢をみて...。
映画を真似ることで現実世界での望みを果たす、といった内容です。

ボースン
2009年9月23日19:37

ありがとうございます。図書館で予約しましたが、ニコニコ動画にも上がっているのを発見しました。
じきにチェックできそうです。

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