蜘蛛の巣
蜘蛛の巣
蜘蛛の巣
1955年、ヴィンセント・ミネリ監督作品。カラー。

国内外ともDVDもVHSも出ていないので、字幕なし録画で視聴。蜘蛛の巣とは人間関係のぐちゃぐちゃさを指している模様。こういう作品こそ、字幕が要るんですけど…(涙)
わからなくても、とりあえずご贔屓リチャード・ウィドマーク様が出ている限り一度は見る甲斐ある筈、と頑張りました。人間関係の複雑さは手持ちの古雑誌や海外サイトのレビューや各種資料で可能な限り補完したけど、まあ話半分で読んでください。

舞台は、マッカイヴァー医師(リチャード・ウィドマーク)が進歩的な運営を試みている精神病院。彼は患者たちに自治会を作らせ、成果をあげている。が、妻カレン(グロリア・グレアム)は仕事熱心すぎる夫に欲求不満。ベテランのドヴァナル医師(シャルル・ボワイエ)は偉そうにしているが実権はマッカイヴァーにある。軽度の患者を診るのがメインらしく建物も美麗。
トラブルのもとは病院図書室のカーテン新調。事務方の女ボスである老嬢ヴィッキー(リリアン・ギッシュ)は経済性重視で検討開始。患者自治会は患者の一人である青年スティーヴィ(ジョン・カー)のデザインで自分たちで手作りする計画を立て、マッカイヴァーと新任職員メグ(ローレン・バコール)がサポートすることに。一方でカレンは夫の気を引きたさに、ドヴァナルに相談しつつ勝手に上等のカーテンを注文する。

たかがカーテン。
なのだが、各自の考えがちゃんと通じてない上、人間関係もこじれてるために、病院内は思いがけず大変なことに…そのへんの行き違いのタイミングの複雑さ精妙さはかなりのもので、粗筋を簡単にまとめようとしても簡単にならない(笑)。タイトルに恥じない、目の離せないお話なのだけど、残念ながらどうもカタルシスがなくて…。多分わざとなのでしょうが(皆新規まき直しモードに入っているのに、レナード・ローゼンマンの音楽は最後まで暗いまま)、悲劇に終わるのでないのなら、やはり少しはスッキリサッパリしたいです。
というわけで、全体としては、少々残念な映画でした。

だって個性派演技派がずらりと並んだ、結構凄いキャストですよ。中心となるのは上の六人ですが、患者の中にはオスカー・レヴァントとスーザン・ストラスバーグも。子役は「帰らざる河」やTV版ラッシーのトミー・レティグ、ドヴァナル夫人に元祖キングコングヒロイン、フェイ・レイ。
彼らの演技合戦を見ているだけで退屈はしないのですが…
優しい老夫人役が多いギッシュが凄い迫力だったり、カレンにも言い寄るドヴァナルの情けない女癖とか(流石に上手いですボワイエ)、美人なんだけどエロくてヒスなグレアムとか。一癖ある演技派グラマーとしてこの頃注目されてたらしいけど、確かに妙な存在感がありますね。

誰もかれもが歪んでる中、真摯に仕事に打ち込んでいるのはウィドマークとバコールだけなんだけど、妻のヒスに辟易の彼と最近夫と子供を亡くしたばかりの彼女は、ついつい心を寄せ合うようになる。やたら肩むき出しなグレアムと、常にしゃきっと襟を立てたバコール、それぞれ見目良い女性ですが見事な対照。バコールのエレガントな立ち居振る舞いを見ると、無理もない、という気にすらなります。自分と同じ方向を見てくれる女性の方がいいに決まってるし。でも彼には可愛い息子と娘もいる…

「精神分析医ウィドマーク」はこれまでの映画歴中、最も知的レベルの高い役柄といえましょう(笑)が、よくハマっていて好感が持てました。医者役がこのあと70年代の「コーマ」までないのが不思議なくらい。面白く感じたのは、スティーヴィが描いた絵の中に彼の絵もあるのですが、ちょっと顎のあたりへ手をやったポーズなんですね。映画の中で、確かに彼の手は雄弁です。椅子にふんぞりかえって患者や部下と話をしながら、しばしば手や指を顎や頬や額にかざしたりしてます。中肉中背、特別押し出しのいい人ではないし、手もゴツくない。手をすいっとひらめかせることで、知的な威厳を醸し出してるのですね。逆に、追い詰められた終盤では手を使う暇はありません。髪や衣服もちょっと乱して、身一つの頑張りのみ。
悪役でも策士的な「折れた槍」のベン役なども、結構手を使っていましたっけ(但し父の圧迫の強い回想部分ではやりません)。直情径行のトミー・ユードーとか「復讐鬼」のレイとかだと、有りえない。ただ、トミーが殺意の高まりとともに、口元の涎をふくような手つきをした所は別の意味合いで忘れられないしぐさですが。

ちなみに私もあれこれ考えながら人と話をするとき、つい顔を触ってしまう癖があります。考えてやっていないので、威厳が出るどころか化粧がハゲるだけですが(^^;)エライ違いだなあ。

あと気がついたのは、不安定な心に苦しみながら淡い恋に落ちるカーとストラスバーグのデートシーン、映画館で流れる曲からすると「略奪された七人の花嫁」な模様ですね(笑)
さすがに自分の作品は避けたけどMGMミュージカルで、ってことなのね。

しかしほんとに、字幕がなあ…。ジュネスでもいいから出してほしい…
英語字幕あるなら海外盤でも大歓迎。即買いますが。
…ついこないだまでYouTubeにもあった筈が、今日見たら消えてたし(T^T)

コメント

nophoto
なにわすずめ
2009年8月11日1:06

こんばんわ。まだ「折れた槍」を途中までしか見てないのであちらにはコメント付けにいけませんが、この「蜘蛛の巣」はほとんど前知識&字幕なしに一度だけ見て、まず感じたのが、ウイドマーク様とバコール、子供たち以外はみんな患者に見えたことです。(笑)主人公の妻と、リリアンギッシュの2人は特に重症でしたね。(爆)

リリアンギッシュは、この瀟洒な病院のオーナーか何かで、ウィドマーク様は、婿養子という立場かな・・・とか、いっぱい誤解しながら見ましたが、(しょっちゅう、妻が電話をかけてる相手だったのでは??)
あとで淀川長冶氏の懇切丁寧な解説を読んで、まちがいを訂正できてよかったです。(ボースン様、ありがとう)

ですが、なかなか味わい深い作品でしたね。ウィドマーク様にはぴったりの役柄でしたし、バコールもクールで知的なタイプのアーチスト役がとてもよかったです。似たもの同士なかんじでしたね。

ウィドマーク様の似顔絵は、どこかで見たことありますよ・・・・
ひょっとしたら、あれ、ただの小道具ではなく、けっこう有名なデザイナーの作品かも・・・。そういえば、リビングのセットになぜか、金地に松を描いた屏風が使われてましたね。あれも、どこかでみかけたことがあるような・・・(重文コピー?)
何度も見ていくといろんな発見がありそうなのですが、これこそほんとうに日本語字幕がほしい作品です。あの、膨大なせりふを聞いていると疲れてきます。

きょうは、キャプチャがしたいがためにMedia Player Classicをがんばってインストールして、画像が残せたのはいいのですが、なんとなく顔が細長くなってるのはなぜ??「折れた槍」で実験していたんですが、あれってワイドスクリーンだから???
それにしてもウィドマーク様は指パッチンがうまいですね。「ノックは無用」のときもいい音で指鳴らしてましたね。

ボースン
2009年8月11日18:59

こんにちわ。

>ウイドマーク様とバコール、子供たち以外はみんな患者に見えたことです

冒頭でグレアムが「患者は良くなるけど、医者はならないわ」と自分で言ってましたよね(笑)
しかし字幕なしはしんどかった。私はハナからあきらめて集めた資料「読んでから見」ました。それでも終盤カーテンのトラブルでショック受けたカー君が失踪するのと査問会開催が怒涛の重なりを見せちゃう流れはやっぱイマイチわからない。座長のレジーナさんて理事長とかですかね?英語で役職を理解するのはとびきり難しいです。

>。ウィドマーク様にはぴったりの役柄でしたし、バコールもクールで知的なタイプのアーチスト役がとてもよかったです。

ええ、いかにも良かったです。
ウィドマーク様は悪役をやる方が「派手」に見えがちなようですが、善人役ならこの映画のように知性や能弁を最前面に出した方がそこらの二枚目役者と一線を画して良いのかもしれませんねえ。ただ、運動神経が良すぎるから普通?のアクション映画や西部劇も捨てがたいし…。カー君が最初に暴れた時の作業室に、しゅた!と飛び込んできた時の鮮やかさには目を見張りました(*^^*)
バコールも身のこなしがカッコイイ人だから、いかにもオトナのカップルで。グレアムが「肉感的だのに子供っぽい妻」を演じていたので余計ですね。まあ、もう少し早く妻の不満を手当してたらこんな騒ぎにはならなかったとも言えるんですが…。

>ひょっとしたら、あれ、ただの小道具ではなく、けっこう有名なデザイナーの作品かも・・

ミネリ監督はセットの美術や小道具には相当凝る人らしいから、ありそうなことですね。屏風もちょっとびっくりでした。お金あるんだなぁあの家。

>それにしてもウィドマーク様は指パッチンがうまいですね。

「折れた槍」とかの?指パッチン(笑)も、手の演技ですよねえ。タバコの扱いのかっこよさも…
しかし、この映画観ていておかしかったのは、喫煙事情の差。ボワイエがギッシュの部屋へ行って仕事の話をしながら煙草を吸おうとすると「私は吸わないから、この部屋には灰皿はありませんよ」とギッシュが冷たく言う。「じゃ小皿を貸してくれ」とボワイエが図々しく要求し、二人は仲が悪いにも関わらず要求は通る。…うーん、どこ行っても禁煙な現代とは凄い違いだ(笑)

Media Player Classicについては、すみません使ったことないのでわかりません。m(__)m

nophoto
オベリックス
2011年7月3日15:17

さっき何気なく米国アマゾンでRichard Widmarkを検索したら、本作のDVDが出ていました。日本のアマゾンでも注文できるとありがたいんですけどねえ。それとも国内盤が出るとか。

ボースン
2011年7月3日22:18

はい、Warner Archivesで今年出たんですよ。字幕はないんですが…
で、とある海外サイトにコレとオコナー作品ともう一枚注文したんですが、何か手違いで送られなくて(震災前後だったのが悪かったのか?)、返事書いたんですがナシのつぶて…
もう一度注文したとたんにダブって送られてきたら嫌なので、様子見しつづけています(爆)
Warner Archivesならここのサイトが一番安いようなのですが、困ったもんだなあ。

でも、セリフがややこしそうなんで、ほんとは国内盤こそが一番出て欲しいです!

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