1949年、ヘンリー・ハサウェイ監督作品。モノクロ。(春に感想書きそびれてたので再見)
「死の接吻」以来極悪人役4連発のあと、ついに初の「善人」役をゲットしたリチャード・ウィドマーク、名優ライオネル・バリモア、当時の人気子役ディーン・ストックウェルという地味ながら達者揃いのキャスティングによる海洋劇です。
1887年、杖をついた捕鯨船の老船長(バリモア)が、孫のジェド(ストックウェル)と共に港に降り立つ。行く先は小学校、学力テストを受けさせるためだ。船上でもちゃんと教育を進めていると証明しないと、他に身寄りがなくても孫を一緒の船に乗せ続けることはできないのだ(なるほど!)。テストの出来は悪かったが、校長は祖父と孫の強い絆を絶つに忍びずパスさせてくれる(うーん、古き良き時代…)。老船長はあと一回は捕鯨航海に出、孫の養育と老後のための蓄えを強化するつもりだが、もう70歳、万一に備えて、と、スポンサーの鯨油会社は補佐として選定した若手航海士ダン(ウィドマーク)の同乗を強要する。
子供の頃から海に出ている、叩き上げの老船長にとって、「学校で航海術や海洋生物学や海洋工学を学んだ」船乗りなどピンとこない。そもそもダンの存在自体、己の老いに対する周囲の不信の象徴である。だが、学校出というからには…と、船長は孫の教育係を「手すきの時でいいから」とダンにまかせる。軽視されている上に余分な仕事か…と最初ダンは不満に思うが、ジェドは次第にダンの知性に心服し、すっかり彼になついてしまう。
しかし、船の老コック(セシル・ケラウェイ)から「船長の敵対心には嫉妬もあろう、老人から孫を奪うような事だけはするな」と忠告されたダンは、心ならずもジェドと距離を置こうとする。そんな時、ジェドの乗ったボートが霧にまかれて行方不明になる。船や他の船員を危険にあわせるわけにはいかない、と船長は捜索を出すことを禁じるが、自室で一人祈る船長を見て、我慢できずにダンはボートで霧中の捜索に出る。漂流していたジェドや船員たちを無事連れ戻ったダンに対して、船長は心から感謝しつつも「重大な命令違反者を一等航海士の職につけておけない」と彼を解任する(勿論港に着くまでは下船できないが)。この措置をダンは理解し甘んじて受けるが、ジェドは「冷たい分からず屋!顔も見たくない、僕も次の港で降りる!」と激怒し祖父と冷戦状態に。
やがて老船長は過労で体調を崩し、「こうなれば君に任せるしかない」と急遽ダンに指揮権を渡して病床につく。ダンは船長の健康を案じ、捕鯨活動を切り上げ故国へ戻ることにするが、悪天候と氷山が彼らの前に立ちふさがる…
船長という立場で船上にある限り、とことん筋を通そうとする老船長。そのためには孫への愛すら押し殺さざるを得ない、その覚悟の凄みを理解した一等航海士は彼に深い敬愛の念を抱く。また老船長も、次第に一等航海士の有能さと誠実さを認め、喜んで船と孫とを託すようになるのだ。こうした登場人物たちの心情の推移が丁寧に描かれて、ハートウォーミングな海洋劇に仕上がっている。悪人などただの一人も登場しない。
特にバリモア、流石の強烈な存在感はお見事としか言いようがない。ただ威厳があるってだけでなく、ダンの最新知識についていけず、でも孫の前で「わからない」とは言いたくなくて夜中にこっそり辞書引いてみたり、非常にカワイイ。貫録とユーモアのブレンド自由自在。これじゃほとんど老船長が主役だ。
もちろん、勉強より海が好き!のストックウェル少年もカワイイ!達者な子役というのはなんか有無を言わせないところがありますね。
そして最後に…、達者な子役と老練な名脇役を相手に丁々発止と切り結び、なおかつ「強烈な悪役」を期待する客の前で「100%善人」を演じて納得させるというのはなかなか大変な仕事であろうが、当然!ウィドマークも静かな熱演を見せてくれる。有能かつ真面目な一等航海士、というのは、ある意味面白みのない役柄なのだが、ここで彼が印象づけるのはバリモアとは対照的な、その繊細さだ(デビュー以来の悪役続きでこの作品まであまり見せる機会のなかった芸風である)。ジェドを突き放してみたもののその辛さに心揺れるさまや、船長の決断(解任!)の正しさを認めながらも無為の時間を過ごさざるを得ない辛さなど、こまやかな演技で鮮やかに伝わってくる。
口を歪めちゃ悪党を演じ続けてきた人だが、元々デコが広く鼻筋通った知的な風貌の持ち主である。祖父に酷い口をきいたものの病気ときいて心配顔になったジェド少年に向かい「それだけでは足りない、あの人の偉大さを君こそが理解しなくては!」と熱く語る場面など、その面差しは豊かな知性と感性に輝くばかりだ。
…って、ファンの贔屓目も入ってるかもしれません、が…、この映画で「世紀の悪役」ウィドマークが、「それだけ」ではない、と、固定化イメージをある程度ねじふせ、世間を納得させるのに成功したのは確かだろう(珍しく金髪にちょっとウェーブをつけているあたりにも、イメージ転換に苦慮してる気配あり)。以後のフィルモグラフィーを見ると、明らかに彼の立ち位置は「ヒーロー・悪役ともに演じられる幅広い演技力のスター」に変化しているのだから。
バリモアの豪放、ウィドマークの繊細、ストックウェルの無縫、三者のみごとなアンサンブル。その他の船員たちも手堅くいい雰囲気出している。アルフレッド・ニューマンの音楽も特筆に値する出来で盛り上げる。(3/20日記参照http://13374.diarynote.jp/200903202343069200/)
…いーい映画なんだけどなあ。本国でもDVDは出てない…(なんでや)。特にウィドマーク・ファンには垂涎の、記念すべき路線転換の一作なのに。(その分★甘くなった(笑))
考えたなー、とは思います。極悪人役で一躍有名になった彼、知的だがラブロマンスの似合う甘めのルックスではない。で、子役を交えてのしみじみヒューマン・ドラマ(アクションつき)という方向性で過去四作と対照をつけたわけですねえ。
ただ、日本では逆にこの映画が、彼の出演作品の最初の公開作だったらしい(まぁ、戦後まもなくの混乱期だから)。それではかえって話題にならなかったろうなぁ…
2009年夏現在、YouTubeで全編視聴可能(13分割されている)。字幕はないけど。
http://www.youtube.com/watch?v=ZH2NK22_KrE
帆船映画なので本サイトにも記事アップ。
「死の接吻」以来極悪人役4連発のあと、ついに初の「善人」役をゲットしたリチャード・ウィドマーク、名優ライオネル・バリモア、当時の人気子役ディーン・ストックウェルという地味ながら達者揃いのキャスティングによる海洋劇です。
1887年、杖をついた捕鯨船の老船長(バリモア)が、孫のジェド(ストックウェル)と共に港に降り立つ。行く先は小学校、学力テストを受けさせるためだ。船上でもちゃんと教育を進めていると証明しないと、他に身寄りがなくても孫を一緒の船に乗せ続けることはできないのだ(なるほど!)。テストの出来は悪かったが、校長は祖父と孫の強い絆を絶つに忍びずパスさせてくれる(うーん、古き良き時代…)。老船長はあと一回は捕鯨航海に出、孫の養育と老後のための蓄えを強化するつもりだが、もう70歳、万一に備えて、と、スポンサーの鯨油会社は補佐として選定した若手航海士ダン(ウィドマーク)の同乗を強要する。
子供の頃から海に出ている、叩き上げの老船長にとって、「学校で航海術や海洋生物学や海洋工学を学んだ」船乗りなどピンとこない。そもそもダンの存在自体、己の老いに対する周囲の不信の象徴である。だが、学校出というからには…と、船長は孫の教育係を「手すきの時でいいから」とダンにまかせる。軽視されている上に余分な仕事か…と最初ダンは不満に思うが、ジェドは次第にダンの知性に心服し、すっかり彼になついてしまう。
しかし、船の老コック(セシル・ケラウェイ)から「船長の敵対心には嫉妬もあろう、老人から孫を奪うような事だけはするな」と忠告されたダンは、心ならずもジェドと距離を置こうとする。そんな時、ジェドの乗ったボートが霧にまかれて行方不明になる。船や他の船員を危険にあわせるわけにはいかない、と船長は捜索を出すことを禁じるが、自室で一人祈る船長を見て、我慢できずにダンはボートで霧中の捜索に出る。漂流していたジェドや船員たちを無事連れ戻ったダンに対して、船長は心から感謝しつつも「重大な命令違反者を一等航海士の職につけておけない」と彼を解任する(勿論港に着くまでは下船できないが)。この措置をダンは理解し甘んじて受けるが、ジェドは「冷たい分からず屋!顔も見たくない、僕も次の港で降りる!」と激怒し祖父と冷戦状態に。
やがて老船長は過労で体調を崩し、「こうなれば君に任せるしかない」と急遽ダンに指揮権を渡して病床につく。ダンは船長の健康を案じ、捕鯨活動を切り上げ故国へ戻ることにするが、悪天候と氷山が彼らの前に立ちふさがる…
船長という立場で船上にある限り、とことん筋を通そうとする老船長。そのためには孫への愛すら押し殺さざるを得ない、その覚悟の凄みを理解した一等航海士は彼に深い敬愛の念を抱く。また老船長も、次第に一等航海士の有能さと誠実さを認め、喜んで船と孫とを託すようになるのだ。こうした登場人物たちの心情の推移が丁寧に描かれて、ハートウォーミングな海洋劇に仕上がっている。悪人などただの一人も登場しない。
特にバリモア、流石の強烈な存在感はお見事としか言いようがない。ただ威厳があるってだけでなく、ダンの最新知識についていけず、でも孫の前で「わからない」とは言いたくなくて夜中にこっそり辞書引いてみたり、非常にカワイイ。貫録とユーモアのブレンド自由自在。これじゃほとんど老船長が主役だ。
もちろん、勉強より海が好き!のストックウェル少年もカワイイ!達者な子役というのはなんか有無を言わせないところがありますね。
そして最後に…、達者な子役と老練な名脇役を相手に丁々発止と切り結び、なおかつ「強烈な悪役」を期待する客の前で「100%善人」を演じて納得させるというのはなかなか大変な仕事であろうが、当然!ウィドマークも静かな熱演を見せてくれる。有能かつ真面目な一等航海士、というのは、ある意味面白みのない役柄なのだが、ここで彼が印象づけるのはバリモアとは対照的な、その繊細さだ(デビュー以来の悪役続きでこの作品まであまり見せる機会のなかった芸風である)。ジェドを突き放してみたもののその辛さに心揺れるさまや、船長の決断(解任!)の正しさを認めながらも無為の時間を過ごさざるを得ない辛さなど、こまやかな演技で鮮やかに伝わってくる。
口を歪めちゃ悪党を演じ続けてきた人だが、元々デコが広く鼻筋通った知的な風貌の持ち主である。祖父に酷い口をきいたものの病気ときいて心配顔になったジェド少年に向かい「それだけでは足りない、あの人の偉大さを君こそが理解しなくては!」と熱く語る場面など、その面差しは豊かな知性と感性に輝くばかりだ。
…って、ファンの贔屓目も入ってるかもしれません、が…、この映画で「世紀の悪役」ウィドマークが、「それだけ」ではない、と、固定化イメージをある程度ねじふせ、世間を納得させるのに成功したのは確かだろう(珍しく金髪にちょっとウェーブをつけているあたりにも、イメージ転換に苦慮してる気配あり)。以後のフィルモグラフィーを見ると、明らかに彼の立ち位置は「ヒーロー・悪役ともに演じられる幅広い演技力のスター」に変化しているのだから。
バリモアの豪放、ウィドマークの繊細、ストックウェルの無縫、三者のみごとなアンサンブル。その他の船員たちも手堅くいい雰囲気出している。アルフレッド・ニューマンの音楽も特筆に値する出来で盛り上げる。(3/20日記参照http://13374.diarynote.jp/200903202343069200/)
…いーい映画なんだけどなあ。本国でもDVDは出てない…(なんでや)。特にウィドマーク・ファンには垂涎の、記念すべき路線転換の一作なのに。(その分★甘くなった(笑))
考えたなー、とは思います。極悪人役で一躍有名になった彼、知的だがラブロマンスの似合う甘めのルックスではない。で、子役を交えてのしみじみヒューマン・ドラマ(アクションつき)という方向性で過去四作と対照をつけたわけですねえ。
ただ、日本では逆にこの映画が、彼の出演作品の最初の公開作だったらしい(まぁ、戦後まもなくの混乱期だから)。それではかえって話題にならなかったろうなぁ…
2009年夏現在、YouTubeで全編視聴可能(13分割されている)。字幕はないけど。
http://www.youtube.com/watch?v=ZH2NK22_KrE
帆船映画なので本サイトにも記事アップ。
コメント
キャプチャは、ウェーブ金髪のわかる分を載せたかったのですが彼のばかり三枚のせるのもアレかと一枚はバリモア&ストックウェルを入れました。もう一枚分ワクがあればねぇ。
それにしても一枚もないって、結局以前のデータは全く救いだせなかったのでしょうか?お気の毒です。
そうそう、改めてYouTubeの「海の男」をDLされるならぜひ「HQ」画質で!今回このレビューを書きながら、画質が選べるのに気づいてDLしなおしました(笑)
本サイトのぶんは「帆船ファン向けコラム」のくくりなのでもう少し短く、やや切り口も変えています。ダブるところもありますが、よければどうぞご覧ください。
DVD画質ってわけにはいきませんが、ちょっとマシにはなりますよ。
またまたボースン様に聞いて見ようのコーナーになりそう・・・・、お疲れのところスミマセン・・・
データの方はその道に詳しいヒトが職場にいたので、頼み込んで、バックアップしてもらってあるので、たぶん大丈夫と思うんですが、コワくて、まだ接続してません。(PCが立ち上がらなかったので、専用のソフトを使ってデータを吸い出してもらいました。これ、業者に頼むとべらぼーに高額なんですね。びっくりしました。)
いやーん、HQで見たいよう・・・特にこの作品は。なまじ聞いてしまったら、矢も盾もかまわず見たくなってしまったおろかなわたし。
ぎゃ!もう丑三つ時ではないですか!!PC戻ってきたとたん、時間の観念が・・・
明日も仕事だっちゅうのに・・・
「折れた槍」のレビューは、さっき少し拝読しました。
憎まれ役なのね。きゃー!!それは、それで素敵でしょうな。
DVD見てからまた、コメント入れます。
とにかく今日はもう寝ます。おやすみなさいませ。
ちなみにURLはHQボタンを押しても変わりません。ごめんなさいませ。
わたしの大のお気に入りシーンのキャプチャつきアドバイスほんとうにありがとうございました。
ROB OSSIAN’S PIRATE’S COVE は存じませんでした。画像もデータもたっぷりで楽しいサイトですね。ありがとうございます。
とにかく帆船が出てくるとそれだけで一定量見たかいがあると感じるものですから、わたくし(笑)
ボースンさんのお名前は随分前から「クラシック映画BBS」で存じ上げておりました。時々遊びにきますのでよろしくお願いします。
画像は鮮明でしょうが、字幕なしはちょっとなあ・・・・。密林で販売するからには、海賊版ではないでしょうが。
「六番目の男」も実は、まだ迷っていて、注文してないんですよ(笑)スペイン盤か、ドイツ盤。よく調べてみると、スペイン盤のほうが、少し、特典が多いみたいなんですよね。どっちにしても、字幕ないしなあ。
国のセンスからいくと、スペイン盤のほうが泥臭いのでは・・・て、気もしますが・・・・
もう少し情報ほしいな。誰か、買った人、教えてほしいです。
なんで、スペインの密林サイトがないんでしょう。スペイン、結構、ウィドマーク様のレアDVD制作に熱心なのに・・・・
スペイン本国へ注文する度胸があれば、14.5ユーロ(英アマゾンの三分の一のお値段)で済みそうですが、さすがにスペイン語はなあ…
…欲しいけど、あまりにも、ドッキドキです。
ここにリンクはれないみたいなので、FCの方にお尋ねメールしましたので、そこから密林に行ってみてください。どちらにしても、情報がわずかなので、こまっています。10日ほど前に発売されたようですから、まだ、ユーザーコメントもないですし。
ソラ、もう、けったいな情報が錯綜してました。Fox JAPAN 提供と、書かれてたりして。(ありえない)しかも、スペインで発売されてる分は、別のパッケージになってました。(密林に出てる画像見ると、箱が分厚そうだけど、なんか入ってるんでしょうかね。いっぱい特典が付いてたら、字幕無くても買うんだけどな・・)
これも、Fantasiumに取り寄せできるんかどうか聞いてみようかしら・・・・
前のコメントにも書いたように英国密林のdescriptionにクララ・ボウと彼女のサイレント同名映画の話が出てくること、そしてパッケージの分厚さからすると、もしかしたら新旧二枚パックだったりして?でも、二種類のパッケージ写真があって発売日は一緒だったりするてのは同じDVDの裏と表なのかな。
スペインのDVD通販サイトを見るとスペイン語字幕はありそうですが…せめてドイツ語までにしてほしいです(独和辞典ならギリギリ持っているので)。
待て続報!てかんじですね。