Thank you, Jeeves! (日本未公開)
1936年モノクロ作品。アーサー・グレヴィル・コリンズ監督。

「サンキュー・ジーヴス!」
そう、タイトルを見れば一目瞭然、かのP.G.ウッドハウスの万能無敵な従僕ジーヴス物語の映画化である。
ジーヴスを演じるのはアーサー・トリーチャー、あまり知りませんがとにかく銀幕では執事役でならしたそうな。そして、ご主人さまバーティ役がデヴィッド・ニーヴン(わお)!私の心のスイートスポット直撃である。そして、原作の出版が34年で映画化が36年。まさにリアルタイムウッドハウス映画化ということでもある。英語字幕はあるしと買ってみた。

最初の場面は、猛烈な勢いでドラムを叩きまくるバーティ(ニーヴン)の雄姿。勢いあまって時々スティックがどこかへ飛んでくように見えるが演奏が途切れることはない。
ややあってカメラが引くと、横でカゴ一杯のスティックを持ったジーヴスが待機しているのが判明する。…やっぱりな。
フレッド・アステアあたりならスティックを投げては受け止めつつの演奏すら可能だろうが、バーティ・ウースターですからねぇ。そして鳴り響くベルは隣近所からの騒音抗議の電話である(夜だし)。…やっぱりな。
原作では冒頭、バーティのド下手なバンジョレレ練習への抗議電話が殺到するのだが、見た目の派手さでドラムに脚色したんだね。なるほどー。

…しかし、原作の気配が残るのはかろうじてこのあたりまでだけ。

ドラム練習を一旦終え、退屈だなードーヴィルあたりへでも行こうか、ご主人さまは冒険心が旺盛すぎです私は長生きしたいんです、などと二人が言い合ってるところへ、雨にぬれ疲労困憊な様子の美女マージョリー(ヴァージニア・フィールド)が飛び込んでくる。以前お兄さんから紹介されたでしょ、覚えてないの、と、あからさまに怪しいのだが、「なんて可愛い娘だ!」とお気楽バーティはとりあえずフラットの一室に泊めちゃう(勿論バーティには兄弟などいない)。
ところが朝にはもう、彼女は勝手口から去っていた。未練なバーティは、ドーヴィルではなく昨夜彼女が落としたメモにあった、田舎の古城ホテルへドライブすることにする(当然ジーヴスも一緒。途中でヒッチハイクの変な黒人サックス吹きも拾う)。すると、何故か後をつけてくる男たちが…実は彼らは昨夜から彼女を張っていたのだ。
強盗に違いない、まいてやれ…と、バーティは意外なドライビングテク?を発揮して、しばし猛烈なカーチェイスが田舎道で展開されるが、追いついてきた男たちは「我々はヤードの刑事で、女泥棒を追っているのだ」と告げる。

ショックのバーティ。それでも古城ホテルで再会したマージョリーに、「泥棒だなんて危険な生き方はやめたほうがいい、更生するなら僕が力になるから」と口説くのだが、彼を軽く見ている彼女は全く取り合わない。ホテルで落ち合う筈だった男が行方不明なのでそっち方面しか考えてない。
…取り合ってちゃんと話をしといたほうがよかったんだけどねぇ。本当は、尾行者たちとホテルで彼女を待ち構えていたボスこそ泥棒(産業スパイ?)で、彼女は盗まれた図面を取り戻して逃げる途中だったのである。

誤解したまんまのバーティは、マージョリーと悪者たちの対決場面に何度も割って入っては事態を混乱させ、それでも真実がわかると、案外?勇敢に戦って彼女を助けるのだった。
ジーヴスもえらく腕っぷしの強いところを見せ、悪者たちはとうとうお縄に。先行きが心配されていたバーティの恋心も、彼女の探していた男が「従兄だった」ってんでハッピーエンド?

最後のドタバタ・大アクションは結構楽しめた。古典を引用しつつ、背と背を合わせて盾や剣(古城ホテルにあった)で戦うバーティ&ジーヴス、そして、その足元でコソコソ働く黒人サックス吹き(ウィリー・ベスト)が意外とイイ味出して笑かしてくれる。
このへんは軽いけど可愛い出来、といえなくもない。


とはいえ、これは脚本、オリジナルすぎである(てきとーすぎるし)。
何よりジーヴスに人が求めるものを、見誤っている。
アーサー・トリーチャーは、堂々たる体躯といい(186cmある筈のニーヴンが小さく見えます。まあ、役柄的にはそれで正解だけど)、悠揚迫らぬ物腰といい、ジーヴズとしての外観は合格点。ところが、一番大事な、脳ミソを使った活躍場面が、シナリオ上ほとんど無いではないですか!しかもやたら歌を歌ったり。そんなの私の知ってるジーヴスぢゃないよー。

ニーヴンのバーティが、結構イメージ合ってるだけに非常に惜しい。
原作のバーティは独身主義者のイメージが強いが、タマには恋に落ちて女の子のために右往左往する時もあるので、恋するバーティでもここはOKだし。
まだ若く、実に20代のニーヴンはなんとも頼りなく可愛らしい。後年洗練の極みに達する気品や風格が、手頃にまだ発展途上なところも、ちゃんとした演技の基礎もなく、キャラクターだけでとりあえずキャリアの序盤を切り開いたというニーヴンの、ほとんど初主演(ビリングはトリーチャー、フィールドに次ぐ3番目だが)であるがゆえの一種素人っぽい所も、「おバカで、お人よしのお坊ちゃんで、それでも騎士道精神に満ちている愛すべき青年」バーティ・ウースターという役柄には最高のマッチングだったのではないだろうか。
MGMから彼を借りてまでバーティ役に抜擢したザナックは流石だ。しかし、同じコンビのジーヴス2作目を撮ろうとしたら、今度はなぜかゴールドウィンが貸してくれなかったという(DVD付録のリーフレットによる。惜しくなったのか?)。
うーん、残念。
だもんで、ジーヴス映画を二本カップリングしたこの「ジーヴス・コレクション」DVD、あと一作はトリーチャー=ジーヴズしか出てこないそうだ。…がっかりである。それより次作では、腕っぷしばかりでなく頭のいいところをちゃんと見せてくれるのだろうか。
まあ、気が向いたらそのうち見よう(冷たい)。

http://www.amazon.com/Jeeves-Collection-Thank-Step-Lively/dp/B000O78KZ6/ref=wl_it_dp?ie=UTF8&coliid=IL052NAMJRCF2&colid=1OHHT0YPZPVWR

脚本はともかく、キャスティングに限っていえば、これならウッドハウスも満足したのでは。
だって最近届いた「ジーヴスと封建精神」(1954年の作品)には、開幕そうそう、ジーヴスの留守中に口髭をはやしてみたバーティが「だがこれはデイヴィッド・ニーヴンが長年幾百万の人々の喝采を勝ち得てきたのとおなじ、繊細で楚々たる植生にすぎない」とジーヴスの冷たい視線に対して自己弁護を行う場面があるのだ(ニーヴン氏に口髭はよくお似合いでございます、と、その点はジーヴスも認める)。
ただ、50年代にはスターとして認められていたニーヴンだが、彼が真に「大スター」としての立場を確立するのは、1956年の「八十日間世界一周」からではないかと思う。

…若かりし日のバーティ役を、そしてその後の成長を、ウッドハウス自身も好意的な眼で見続けていたゆえの楽屋落ちとしか考えられませんねコレは(笑)

★三つは、ニーヴン=バーティが可愛かったがゆえのゲタ履き数字です。

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