八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)
2008年10月14日 読書 コメント (2)
新田次郎著。
夏に家族旅行で八甲田山に立ち寄ったこともあって手を出したら、小5の息子が「読んでみたい」と言ったので先に読ませた。かなりかかったが一応読破したようだ。立派立派。
で、ようやく私も読めるように…。
最初の数ページで人名の迷宮によろめくが、そこを超えれば一気呵成。
いや、御見それしました。新田さん初読みなのですが、実録小説ということである程度展開が分かっているにもかかわらず、こうも緊張感が途切れずびんびんに張っているのは凄い。
決死の覚悟で、検討に検討を重ねて雪山踏破に挑む第三十一連隊の徳島大尉の姿はみごと。もともと対露戦を意識して極寒地の軍隊行動のテストという『雪中行軍』。情報や研究も進んでいない防寒耐寒の技術を、進軍中に様々に研究を行いすぐに取り入れる。何でそんな?と思われた命令が、後になって効いてくるさまは痛快だ。「計画作成と指揮は絶対的に自分にまかせきってもらえるのでなければ自分にはできない」と、最初に上司に釘を差すのも、いかにも賢明である。そして、慎重に慎重に進んだ最後の難所では、始めて彼は案内人も首を振るなか「無理」を言う。しかしそこまでを最小ダメージで乗りきっているので、無理が何とか通ってしまうのだ。
ただ、難題に挑む軍人としての姿はほとんど満点に近いのだが、地元の案内人の重要性を熟知しながら意外と案内人たちには冷たい。とことん軍とその使命だけに徹し、鬼にならねばこの難題は果たせないということか。優れた軍人とはそもそも鬼でしかないのか。
対照的に、短期間とはいえ雪中行軍の経験が既にある徳島大尉に教えを請いに行くなど、あくまでも誠実に取り組みながら、目先にばかりとらわれる上司山田少佐にやたら介入されて、指揮官とされているのにどんどん事態が自分の手を離れて悪化してゆく第五連隊の神田大尉。気の毒としかいえないのだが、それでも何か、できることはなかったのか、現場の混乱を食い止めるために…と、悔いは尽きまい。
軍隊では基本的に階級が絶対。正しい判断でもヘタに上を無視すると破滅。「ケイン号の反乱」を見よ。
そして少佐が衰弱し、神田大尉の心が折れる頃に(ここは残念。上司に振り回されつつもここまで頑張ったのに…)、意外なリーダーシップを見せる倉田大尉。少佐同様「編成外」の同行者でありながら、指揮官ぶりたがる少佐と違い、立場を守ってずっと無言で脇に控えていた彼が、状況に必要とされて初めて、どんどん周囲を鎮静化させるべく声をあげる(…まあ、あまり服装等にきっちり指導がゆきとどいておらず各人の耐寒仕様に差があった神田隊で、衣服の耐寒度が一番高かったのが正気を保っただけなのかもしれないが)。リーダーシップというものについても、様々に考えさせてくれる物語だ。
微妙に名前を変えて、「小説」としているが、どこまでが史実通りで、どこまでが作者の創造なのか?
ただまあ、少なくとも、「日本の軍隊は不可能を可能にするんです!」とか叫んで無理な行軍のムードメーカー?になった下士官は創造ではという気がした。日本陸軍、ほんとに天狗になり始めたのは日露戦争で勝って以降なんでは?
昭和の陸軍なニオイがちょっとする。
わざとこんなセリフをいれて、「フン。」とか、そっぽを向いている作者が想像できて苦笑い…。
…見当はずれだったらスイマセン。
夏に家族旅行で八甲田山に立ち寄ったこともあって手を出したら、小5の息子が「読んでみたい」と言ったので先に読ませた。かなりかかったが一応読破したようだ。立派立派。
で、ようやく私も読めるように…。
最初の数ページで人名の迷宮によろめくが、そこを超えれば一気呵成。
いや、御見それしました。新田さん初読みなのですが、実録小説ということである程度展開が分かっているにもかかわらず、こうも緊張感が途切れずびんびんに張っているのは凄い。
決死の覚悟で、検討に検討を重ねて雪山踏破に挑む第三十一連隊の徳島大尉の姿はみごと。もともと対露戦を意識して極寒地の軍隊行動のテストという『雪中行軍』。情報や研究も進んでいない防寒耐寒の技術を、進軍中に様々に研究を行いすぐに取り入れる。何でそんな?と思われた命令が、後になって効いてくるさまは痛快だ。「計画作成と指揮は絶対的に自分にまかせきってもらえるのでなければ自分にはできない」と、最初に上司に釘を差すのも、いかにも賢明である。そして、慎重に慎重に進んだ最後の難所では、始めて彼は案内人も首を振るなか「無理」を言う。しかしそこまでを最小ダメージで乗りきっているので、無理が何とか通ってしまうのだ。
ただ、難題に挑む軍人としての姿はほとんど満点に近いのだが、地元の案内人の重要性を熟知しながら意外と案内人たちには冷たい。とことん軍とその使命だけに徹し、鬼にならねばこの難題は果たせないということか。優れた軍人とはそもそも鬼でしかないのか。
対照的に、短期間とはいえ雪中行軍の経験が既にある徳島大尉に教えを請いに行くなど、あくまでも誠実に取り組みながら、目先にばかりとらわれる上司山田少佐にやたら介入されて、指揮官とされているのにどんどん事態が自分の手を離れて悪化してゆく第五連隊の神田大尉。気の毒としかいえないのだが、それでも何か、できることはなかったのか、現場の混乱を食い止めるために…と、悔いは尽きまい。
軍隊では基本的に階級が絶対。正しい判断でもヘタに上を無視すると破滅。「ケイン号の反乱」を見よ。
そして少佐が衰弱し、神田大尉の心が折れる頃に(ここは残念。上司に振り回されつつもここまで頑張ったのに…)、意外なリーダーシップを見せる倉田大尉。少佐同様「編成外」の同行者でありながら、指揮官ぶりたがる少佐と違い、立場を守ってずっと無言で脇に控えていた彼が、状況に必要とされて初めて、どんどん周囲を鎮静化させるべく声をあげる(…まあ、あまり服装等にきっちり指導がゆきとどいておらず各人の耐寒仕様に差があった神田隊で、衣服の耐寒度が一番高かったのが正気を保っただけなのかもしれないが)。リーダーシップというものについても、様々に考えさせてくれる物語だ。
微妙に名前を変えて、「小説」としているが、どこまでが史実通りで、どこまでが作者の創造なのか?
ただまあ、少なくとも、「日本の軍隊は不可能を可能にするんです!」とか叫んで無理な行軍のムードメーカー?になった下士官は創造ではという気がした。日本陸軍、ほんとに天狗になり始めたのは日露戦争で勝って以降なんでは?
昭和の陸軍なニオイがちょっとする。
わざとこんなセリフをいれて、「フン。」とか、そっぽを向いている作者が想像できて苦笑い…。
…見当はずれだったらスイマセン。
コメント
日露戦争までは、もっと謙虚で考え深くって、でもって窮鼠猫をかむ状態で始めた戦争だと思います、と、「坂の上の雲」ファンは勝手なことを言ってしまうのですが(笑)
精神論だけではどーにもならんのが戦争ですよね。やはりなににおいても動員できる物量の差が…。
八甲田の死の迷宮は、WW2のメタファでもあったのかも、とか、いろいろ考えてしまう面白い書物でした。あとがきにもありますが、坂の上の雲の明るさと対照的な「暗い」明治の物語でした。
しかし、「坂の…」でしたか、東北の兵が最強だったとか書いてたのに、こんな所でムダに二百人も死なせてたのか…