秘密諜報機関
1961年、フィル・カールスン監督作品。モノクロ。
今回ネタバレあり(原作ともどもに)。

この映画の原作はアリステア・マクリーンの「最後の国境線」。学生時代、マクリーンで“冒険小説”というジャンルに目覚めた私であるが、彼の小説中でも上位とされる冷戦スパイ・アクションの傑作とあって、どの程度のデキかとドキドキしながら視聴(DVD出てないのでVHS)。
…あまり評判を聞かないので、「期待しすぎないように」と己を戒めながらですが(^^;)

主人公は、借金で首が回らず金目当てに仕事を請け負ったアメリカ人の雇われスパイ・レイノルズ。原作では英国の諜報部員ですが、リチャード・ウィドマーク主演だからこの改編はまあ仕方がないか。以下、映画版のストーリー。

レイノルズは地下に潜っているハンガリーの反共運動指導者の救出のため、まず彼の娘ジュリア(最近西側へ脱出したばかり)から居所を聞き出すべく記者になりすましてウィーンへ。
謎の男(シャルル・レニエ)の妨害にあいつつ見つけ出したジュリア(ソニア・ツィーマン)は、強引に国外に脱出させられたが父のもとに戻りたいから一緒に連れて行けと、強引にブダペストまで付いてきます。国境駅での厳しいチェック、ブダペスト到着後も課される厳重な監視…そのスキをかいくぐり、ようやく会えた指導者の“教授”(ウォルター・リラ)は「死など恐れない、一人でも余計に救えるのなら本望だ」と脱出を拒否。教授の信念の強さにうたれて一旦レイノルズは引き下がるが、ハンガリー秘密警察の魔手は予想以上の早さで迫り、彼らは教授ともども囚われ拷問を受ける羽目に…

モノクロにしたのはシリアスなスパイ映画としてのリアリティを高め、成功だったと思う。迷路のような東欧の夜はいかにも冷戦時代のサスペンスにふさわしく、ヨーロッパ俳優でまとめたのも、地味にはなったが雰囲気は出ててよろしい。ウィーンでジュリア探し中に、ちょこっとウィドマークにからむ金髪で色っぽい謎の女センタ・バーガーも、知的で「普通のお嬢さん」ぽいツィーマンと対照的でナイス。出番があれきりなのは惜しいかも。とはいえ、ウィーンで時間取りすぎたのはマイナスかな〜
しかしそもそも、ブダペストでロケなんてまともにさせてもらえる訳ないから仕方ない?誰が敵で誰が味方か予断を許さぬ展開は、後半の方がスリリングで面白い。

そしてなにより!原作では東側に拉致られた西側の教授を救出するのが使命で、途中地下組織のリーダー・ジャンシたちの手を借りる(そしてジャンシの娘ジュリアと出会う)だけなのだが、映画では強引に一人のキャラにまとめられた(映画の字幕は“ヤンシー教授”)。登場人物が多すぎると整理されたのだろうし、舞台をウィーンに半分移すための改変かもしれないが、これはやはり残念だった。
ジャンシは圧政と戦ってはいるが、そのために家族の大多数を失ってきたにもかかわらず、システムを憎んでも人間を憎むまいとしている非常に理想主義的なキャラクター。拷問室内で、苦痛に耐えながらその信念を主人公に語る場面など大変感銘を受けたものである。あまつさえ、ラストは娘を主人公に託して「まだやることがある」と、危険なブダペストヘと戻っていくのだ。
映画ではギリギリの逃亡劇を繰り広げた末に、結局なりゆきで主人公や娘と共に脱出をとげてしまうのだが…アメリカ映画だと仕方がないのでしょうかねぇ。
拷問室シーンも簡略化されてたし。とはいえ、毅然とした態度に主人公が感銘を受けるのは映画も一応描いてはいた(拷問室ではなくアジトでの会話で)。スレた雇われスパイが、カリスマ指導者の信念と人格にうたれる…というところはキチンと表現してくれてますウィドマーク様。基本的にこまやかな演技のできる人だから。そして、やたら殴られる場面が多いのを見ていて、うーむ、マクリーン原作な映画には向いてる人だなーとも思った。肉体的心理的両面とも、傷つけられた時の演技が上手いから(笑)

とか考えるとますます、「ナヴァロンの要塞」のミラー役が彼だったらと思わずにはいられませんなあ。これまた大好きな、マクリーン代表作のひとつ。ナヴァロンへの潜入チームのうち爆発物専門家ミラーが「一人だけ」アメリカ人だったのですが、映画では元教授の変わり種英国人…という設定に変えられ、デヴィッド・ニーヴンが演じました。いや、ニーヴンも好きなスターなんだけど、ウィドマーク様なら「100%原作通り」なミラーをやれたのになーと思うと残念至極(^^;)

脱線しました。
まあそんなわけで、原作ファンにはやはりちょっと残念なって感じ(原作を超える映画なんてなかなかないけど)の作品。それでも監督カールスンがどこかのインタビューで「OO7みたいなユーモアを交えたスパイ・アクションにしたかったのにウィドマークが理解してくれなかった」とか言ってたのを見ると、「ウィドマーク様が正しい!」とか思いますけどね。シリアスが正解。中盤、深夜にホテルに戻ったウィドマークが酔っ払いのふりをして役人をごまかす場面など、ユーモラスなんだけど(そしてウィドマークもそーゆーの上手いんだけど)、ちょっと浮いてたっけ。監督との意見の相違のせいかしら。ちなみに音楽もこの場面浮かすのにあずかってた気がする。音楽、今や超大物扱いのジョニー(現ジョン)・ウィリアムズなのだが、この人好きじゃないんですよ私、昔から。

実はウィドマーク本人の製作で、脚本は実の細君ジーン・ヘイゼルウッド。珍しく内輪なつくりのこの映画は、彼なりにチカラの入ったものだったのかも。不満はあるものの、ウィドマーク様がマクリーンのファンだったのかと思うと、それは何となく嬉しいな♪

画像は、公開当時の「スクリーン」の記事からスキャン…☆

コメント

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オンリー・ザ・ロンリー
2008年9月27日10:01

お早うございます。
いつもの図書館で半世紀?ぶりに観ましたよ。子供の頃、「諜報」を「ちょうほう」と読めず・・。公開当時のポスターではセンタ・バーガーは大々的だったな〜。なのに出たの数分。ボースンさんの言われる酔ったふりしてホテルに戻り・・、意外な一面を見た感じ。
作品には努力賞をあげたい。

ボースン
2008年9月27日17:03

レンタルショップではいよいよDVD主体となってきて、ビデオでしか出てないものを見る機会が失われつつありますから、昔の作品はいまや図書館が頼りですね。古典的名作はともかくも…。
センタ・バーガーは小さい役だけど色っぽくて印象的でした。どっちの女優さんも良かったな。当時の「スクリーン」記事を見ると、二人とも欧州でウィドマーク自身が見つけてキャスティングしたように書いてます。結構良い趣味だと思う(笑)

努力賞、という表現は言い得て妙ですね☆
マジメさが感じられるけど佳作、には届かなくて、なんかそんな感じ(笑)

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なにわすずめ
2009年6月12日23:08

こんばんわ。今日やっと誰にも邪魔されずに見終わりました。(^_^;)
やっぱり、オープニングのタイトルとか、細かいところにもこだわりが詰まっていて、いい作品だと思います。原作は、読んでないのですが、ファンとしては、いっぱいウィドマーク作品のエッセンスが盛り込まれていて楽しかったです。
ヨーロッパの夜の街を走り回る場面、女性連れで見張りの目を必死で欺きながら、逃走する場面、よれよれになりながら、車すっ飛ばして逃走する場面、みんな、どっかで見たような場面でしたけど、やっぱり、ウィドマーク様いい味出してました。ウィドマーク様の繊細な持ち味とヨーロッパの風景&役者さんの組み合わせは、とてもマッチしてましたし。
音楽もよかったと思いますが、ボースン様は、あまりお好きでないとか・・・
この人、他にどんな曲書いてるんでしょうか。
センタ・バーガー、このときまだハタチだそうですが、うらやましい役ですね^^;

それから、ヤンシー教授の娘の名前が、ジュリアで、思い出しましたが、この作品と「ジュリア」、どことなく共通する部分がありますね。
列車に乗って、行方不明になってる友人ジュリアのところにジェーン・フォンダが届け物をしにいく場面をふと、思い出しました。(敵か見方かわからない人たちに囲まれて不安な旅をしてる場面)

これ、字幕ないのをいきなり見ても、半分以上訳わからないと思いますので、とても有難かったです。しかも、ビデオと思えないほど、画像きれいでしたし。(^^♪
ありがとうございました。DVDになったらいいのに・・・

ボースン
2009年6月12日23:51

お気に召したようでよかったです。私はなまじ原作にも思い入れがあるので、ちょっと脚色があるたび気になったりとか、かえって素直になれない部分もあるかも。
前半と後半(教授やジュリアを大事に思い始めてから)で、面構えからして違ってきてたり、いつものように丁寧に演ってくれているんですけどね。

それに、確かに彼はヨーロッパが似合いますね。西部劇も似合う癖に…不思議です。無国籍なのはほのかなインテリ臭のせいでしょうか。

ジョン・ウィリアムズは、一番有名なのが「スター・ウォーズ」でしょう。あと「ジョーズ」とか「スーパーマン」とか。「スーパーマン」はこの人の曲の中では比較的好きですけれど…。もっと新しいところは、最近の映画は見てないので知りません(爆)

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オベリックス
2010年9月17日17:58

最近見ました。なんと言ってもウィドマークさんがハードボイルドなムード漂うヒーロー役で、かなり、ほとんど、まるっまる出ずっぱりというだけで、満足度が高くなってしまう映画です。困ったミーハーです。2時間に及ぶウィドマークさんのPVとでも言いましょうか。
字幕が無いと、おそらくさっぱり分からない映画ですが、字幕ないほうが、かえってPVとしてだけ純粋に楽しめるかも、と思ってしまいます。

冷静に物語を考えると、字幕だけだと説明が足りないのか、私のおつむが足りないからか、よく分からないのがウィドマークのキャラクターです。
フリーのスパイってことでいいのでしょうか。それにしても、冒頭で、なぜ教授救助の依頼を一度断るのか、その理由がよく分かりませんでした。特に借金があってお金に困っていそうな感じだったので、余計に不思議に思ってしまいました。

しかし、ウィドマークさん、主人公で出ずっぱりなのに、あまり主体的な活躍はしてくれませんね。教授も自分で探し出したんじゃなくて向こうから発見したんだし、教授と一緒に捕まった後も、自力で脱出したんじゃなくて救出されてましたし。でも、カッコいいからいいです。

ボースン
2010年9月17日23:19

冒頭乗り気でないのは危険度が高かったからではないでしょうか。冷戦真っただ中での東側潜入ですし。命あってのものだねです(笑)

>しかし、ウィドマークさん、主人公で出ずっぱりなのに、あまり主体的な活躍はしてくれませんね。

原作がわりとそんな感じでしたからね(^^;)

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さがみひいす
2011年3月21日13:54

こんにちはボースン様!ビデオ「秘密諜報機関」を久々に観ました。ヤンシー教授との対面シーン等、優しさを醸し出すウィドマーク様の演技が印象的な映画ですね。あの大きな目が表す優しさ!観るたびに惚れ直しです!同じころの映画で、一目ぼれした作品「馬上の二人」のウィドマーク様と共通のものを感じました。その後の「シャイアン」へと繋がっていますね。さすがジョン・フォード監督ですね、今となってはアーチャー大尉の役は彼以外に考えられません。あの映画はシャイアンの叫びの様な音楽が今も頭の中で蘇ってきます!…「秘密諜報機関」も「馬上の二人」も「シャイアン」もDVDが出るといいですね。

ボースン
2011年3月21日21:43

おひさです、さがみひいす様。お元気でいらしたようでなによりです。

60年代前半の作品、DVD化されずに結構いろいろ残っていてくやしいですよねー。まだまだこの頃はスマートで身のこなしが超素敵ですし、特にジョン・フォード作品での、不思議なほどに若々しくピュアな純朴さ(青臭さ?)はとても美味しいと思うんですが。フォード作品なんか日本盤がでてもおかしくないと思うのに謎です…。まあ、午前十時の映画祭にも二年連続フォード不在というビックリの結果があるあたり、世の中は元々謎が多いものなのでしょうが。待ち切れず海外盤を買ってしまった私…(笑)

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