ビリー・ワイルダー監督、1959年モノクロ作品。

最近映画系のコメントを付けたり頂いたりの機会が増えてきましたが、その分ふとDVD購入の衝動に負ける事も増えたような…。
おそらく「バイキング」でトニー・カーティスは別段好みではないと書いたり「ショウほど素敵な商売はない」でモンローへの物足りなさを漏らしたりしたのが、「お熱いのが…」を買っちゃったキッカケかも。
TVで何度も見た作品ですが、モンロー、カーティス両人ともに、この作品こそが一番私の好きな映画なので。
なにしろ、ビリー・ワイルダー監督ですから!!!

舞台は1925年、禁酒法時代のシカゴ。ギャングの抗争場面に出くわしたバンドマンのジョー(トニー・カーティス)とジェリー(ジャック・レモン)は、ギャングたちから逃げるため、女性ばかりのバンドに女装で紛れ込みフロリダへ。偽名はそれぞれジョーゼフィンとダフネ。…何故ダフネ?(笑)。
フロリダでは、保養に来ていた富豪の爺さん・オズグッド三世(ジョー・E・ブラウン)が“ダフネ”を気に入り猛アプローチ。一方、プレイボーイのジョーはヴォーカルのシュガー(モンロー)を口説くべく、富豪の御曹司に化けて彼女をヨットの晩餐に誘う。苦心の早変わりには笑わせられます。ヨットも実はオズグッドの物なのに(笑)
玉の輿に憧れるシュガーも喜んで応じるが、大騒ぎの一夜が明けると彼らを付け狙うギャングもフロリダへ来た事が判明し、ドタバタの逃走劇が再開される。こうなったら彼女ともお別れ…さすがに図々しいジョーも、今回ばかりは後悔と罪悪感を感じて「感謝の印」として彼女にダイヤを贈るなどする(これまたオズグッドが“ダフネ”に贈った品!)。ついに空港も駅もギャングたちに封鎖された。主人公たちの運命やいかに?

有名な映画なので細部については省略。とにかくワイルダーの「役者の使い方」の上手さに舌をまくばかりだ。
モンローを一番魅力的に見せたのは断然ワイルダーだろう。お色気の中に不思議にイノセントな可愛らしさがあるのがモンロー最大の武器だと思うが、そうした二律背反な魅力は、リアリズム映画より上質なコメディでこそ十二分に発揮されると思う。血の通った人間である限り、イノセンスなんて、限りなくファンタジーに近いものなのだから。

「玉の輿狙い」と事前に女装のジョーに明言しているにもかかわらず、「婚約者が事故死して以来、女性に何も感じなくなって…」と告白するニセ御曹司に対して「私が治してあげるわ!」と勇み立つモンローを見て、観客は「玉の輿のため頑張ってるなあ」と思うだろうか?いやいや「玉の輿だけでなく本気で同情して勇み立ってるんだ」と何故だか感じてしまう筈である。思えば非常にバカバカしく下世話な場面の筈なのに、スクリーンにあふれるのはホンワカ浮世離れしたモンローの、優しい魅力。
この映画と「七年目の浮気」(その色っぽさに男はクラクラするのだけれど、彼女自身はあくまでもイノセント!というそれだけで成り立つ物語だ)、演技力どうこう以前のメガトン級の「個性」の輝きを、最も効果的に見せた彼女の代表作が両方ともワイルダー作品なのはむべなるかなである。モンロー本人は演技力をつけたい、シリアス作品で認められたいと悩んでいたそうだけど、こればっかりは仕方がないかもね。

そして、歌う場面も三回ある。「ショウほど…」では不満の残った彼女のミュージカル・シーンだが、この三曲はあつらえたようなベストチョイスだ。彼女の歌にはパンチがないが、intimateな雰囲気の中ではいい味が出る。だから大きなステージよりクラブの歌手とかのほうが合うわけだ。まず彼女のイメージソンクにまでなってしまった「I wanna be loved by you」。さいぜん「イノセント」の語を使ったが、彼女の一種子どもっぽい愛らしさが、舌ったらずな唱法の似合うこの歌にピッタリなのは当然だろう。そして三曲中では一番パワフルな勢いのある「Runnin’ wild」。これは本番ではなく、揺れる列車の中での練習だ。狭い車中、密集したメンバーの中で彼女が腰を振るさまは、曲調はワイルドでありながらintimateな雰囲気十分。なるほど!のひとひねりだ。そして最後の「I’m through with love」。ほとんど動きのない静かな失恋ソングはニセ御曹司から別れを(電話で)告げられたばかりのステージ。置いてゆかれた子どものような無垢な哀しみをにじませて絶品だ。

そしてカーティスのほうも、歴史活劇のコスチュームの二枚目で売り出し、やがてシリアスな問題作にも出演するようになり…だったところで、「お熱いのがお好き」で「底抜けに図々しく調子のいいプレイボーイ」という『彼ならでは』の新たな役どころを確立した感があります。この後、カーティスのプレイボーイ・コメディは何作も作られるわけですね。二股どころか三股で笑わせる「ボーイング・ボーイング」とか。
「お熱いのは…」ではジャック・レモンの達者さのほうが取り沙汰されることが多い気もするけれど(勿論私も彼の達者さを否定などしません)、決してカーティスが「食われ」たりはしておらず、モンローと三者引き立てあって見事なバランス、と思います。

そして20年代は狂騒のジャズ・エイジ。BGMも当時の曲をふんだんに使い、まるでミュージカルのような賑やかではしゃいだ気分が全編横溢している。モノクロにしたのは「なるべく女装をグロテスクに感じさせないため」とワイルダー監督が伝記でも言っていたと思うが、音楽と衣装やテンポの良い映像とあいまって、いい意味でサイレント喜劇の懐かしさをダブらせ、時代性を抜き去った分かえって永遠の名作となった感じ…。

ちなみにDVDには、特典映像として、T・カーティス・インタビューが収録されてます。当時のことを楽しげに語る彼が印象的。女装の苦労や工夫やニセ御曹司を「ケーリー・グラント風」に仕上げたこととか…メガネにブレザー、前からもしやと睨んでたけど、やっぱり意識的だったのね!女性バンドのメンバー同窓会(笑)もあわせて、裏話が色々聞けて価値ありでした。いや、よかったよかった。

コメント

nophoto
オショーネシー
2008年5月7日23:34

この映画でのビリー・ワイルダーのモンロー評、「頭のおかしな奴と2人きりで飛行機に乗っているようなもんだ」でしたが、モンロー死後彼女を最高の女優と持ち上げていますね。
私はギャングのボスのジョージ・ラフトが好きなんですよ。
彼のニヒルなダンディさったら最高です。

ボースン
ボースン
2008年5月8日13:22

モンローは余人にないモノを持っていたと思いますが、それをカメラに残すのもまた至難のわざだったようですからねえ。誰もが、情緒不安定の彼女の「調子のいい時」に合わせてそれっ!と仕事を進めたって話ですもんね。
それでも、がっぷり四つで「一枚看板」のモンローを二作も撮ったのは、ワイルダーだけ。ハイリスクハイリターンをやり遂げたということでしょうか(ホークス作品は「一枚看板」じゃないので除きます)。

トニー・カーティスも、インタビューの中で「僕がマリリンの悪口を言ってたって?いやーそんなの嘘だよー、彼女は素晴らしいよ」とか言ってましたが、撮影中には絶対グチのひとつやふたつこぼさなかったワケあるまいと私は睨んでます(笑)

ラフトも貫録でしたよねえ。ギャングたちの描写などにも絶対手を抜かない、隙のないワイルダー監督作品が好きです。
若いギャングがコインを投げていましたが、あれの元ネタ映画(ラフトの)を未だ見ていなくって、残念です…

nophoto
オショーネシー
2008年5月10日21:42

トニー・カーチス、マリリン・モンローとのキス・シーンでは「ヒトラーとキスするみたいなもんだ」とのたまっていましたけど、いや〜時が浄化させるのか、マリリン・モンローの評価が高いからか、皆コロッと証言を変えるのね(爆)
ジョージ・ラフト、「暗黒街の顔役」は私も未見なんですが、キャロル・ロンバートと組んだダンス映画(彼はダンサーでもあるんですね)「ボレロ」と「ルムバ」は良いですよ〜。

ボースン
ボースン
2008年5月10日22:50

そうその「ヒトラー発言」ですよ、彼がニッコリ否定してたの。有名ですよね(笑)もしかするとホントに時の浄化力で忘れたのかもしれませんが…もういいトシですしね、ははは。スクリーンに残された結果さえよければ、私はあまり気にしないほうなんで。

オショーネシーさまオススメの、ラフトのダンスの実力は相当なものだったそうですね。アステアやキャグニーも伝記でホメていたのじゃなかったかな。
アステアのは持ってないんで(読んだことはあり)伝記以外で聞いた話かもしれませんが、キャグニー自伝は持っています。それも、和田誠のイラストが一杯入ってるのが嬉しい。後から同じ訳者での新版が出ていて、内容はひょっとしたら新しいもののほうが良いのかもしれませんが(解説とか)、取り換えるのはまっぴらですね(笑)

nophoto
オショーネシー
2008年5月11日22:09

キャグニーの自伝、私も初版本持っています。
しかしまだ未読。アステアの自伝も未読。
映画本収集が趣味なので(あくまでも収集です)持っている本の中で読んだのは全体の3/1ぐらいでしょうか…。
でも最近は情熱が冷めたかなぁ。
買うお金が無いってのが一番の理由ですけど(爆)

ボースン
ボースン
2008年5月11日23:46

キャグニー自伝は、すごく面白いですよ〜!いかにも彼のイメージ通りな景気のいい語り口で、舞台や銀幕の裏話を繰り広げてくれます(訳文にもよるのでしょうが)。思い出話の中にはジョージ・ラフトやアステア様も登場します。楽しい本なので、読み始めると、あっというまに最後のページまでいってしまうのではないかしら。
アステア自伝は映画界に入る前の話が多くて、おとなしい印象です。アステア本人の中では舞台時代のほうが大きいのかもしれません。だいたい自伝が書かれたのも50年代ですからどっちが長いかと言われると…?(笑)

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