復讐鬼

2007年12月12日 映画
郡立病院で刑務所病棟を担当する黒人医師ルーサーは、怪我をした強盗犯兄弟を診察する。一人は、銃創よりも脳溢血の疑いがあったため検査するが、その途中で患者は死んでしまう。兄である共犯者レイは、黒人のルーサーが弟を殺したと思い込み、復讐を指示、スラム街の白人が黒人街を襲おうとするが、情報を得た黒人たちは先回りして白人たちを袋叩きにしてしまう。怒ったレイは脱走し…。 1950年日本未公開作品。モノクロ

古いけど人種差別問題社会問題を真正面から扱って結構強烈な作品。
差別意識と逆恨みでベッドの上からムチャクチャをやるチンピラのレイ(リチャード・ウィドマーク)と、それに耐え、そしてあくまでも人道的(理想主義的)であろうとする若い黒人医師(シドニー・ポアチエ)の対決。

ひとつの街で結構簡単に人種暴動が起こったりするさまは呆然だ。白人社会の中でも、特に貧しい層こそが不満を黒人差別へ振り向けて過激になりがちというのは周知だがそのへんをもろに突いてる。しいていえば、もう少しレイたちの白人スラムの生活環境をセリフだけでなく絵で見せてほしかったなあ。あやしいビリヤード場だけでなく。ルーサーらの住む黒人街の様子は映るのだが、割と小奇麗。ただ大家族で一軒の家に住んでて就職がなかなかとか言って悩んでいるところはそれなりにしんどいものがあるのだろう。“ビーバー運河(白人スラム)”はもっと…どのくらい酷いのだろう?
外国人にはもう少し具体的なイメージがあると、もっと良かった(半世紀も前の映画だし、限度があるということかもしれないが…)。
まあ出演者たちの熱演である程度はそれも吹き飛ぶ。フィルム・ノワールのようなサスペンス調で話は進むし。

ウィドマークは最初から飛ばしまくりで、医師ルーサーに初対面ですぐ唾を吐きかけ、差別語をぶちまける。スラムのチンピラ連中の中でもボスクラスらしく、病院にいながらにして、死んだ弟の妻(リンダ・ダーネル)をたぶらかして暴動の引金を引く。果ては撃たれた足を引きずって脱走し、ルーサーに銃を突きつけながら痛みと高熱に半ば錯乱してゆくあたり凄い熱演である。
逆恨みは勿論だが、彼の黒人差別が自分の「不幸」な立場(スラムで育ってそのまま悪党になって…自分も悪いんだが)へのドロドロした不満と歪みがカタチを変えたものであることが、次第に乱れていく彼の言動からあふれてくる。
黒人看護婦の「殴るのは自分が偉いと感じるからよ」というセリフがあった。納得だ。
ラスト、身も世もなく子どものように嗚咽するレイは、「医師として、それでもレイを治療する」というルーサーに、完全に「負けた」という表現なのだろう。まあ、傷が治った頃にはあの涙はどこへやら、またただのワルに戻ってるかもしれないが、あの瞬間だけは。

リンダ・ダーネルもなかなかの印象。スラムを脱出しようと努力し、レイの歪んだ根性を知りつつも、幼馴染でもある彼の訴えにほだされかけたり懊悩する様がやっぱり熱演!
ポアチエは…いや、良いんだと思うのだけども昔から私この人苦手感があるんですね…なんだか行儀良すぎて面白みがないというか。いや、面白みがないくらい「ちゃんとした人物」なんだけどこの医師。ごめん。

…しかし、困ったものである。
ウィドマーク様、こーゆー救いようのない悪役でも、ホント真面目に熱演しちゃうから(しかも巧いから)、まーた余計に悪役の回ってくる度が上がるんですよね〜(涙)
ヒーローやっても十二分にカッコいいのに、しくしく。
特に日本じゃ、悪役やってる映画ばかりが次々DVD化されてゆくし。ううう。地でやってるとか誤解されてる、きっと。

聞いた裏話では、本来彼は生真面目な人で、撮影後「毎日謝ってた」んだそうですポワチエに。セリフとはいえ差別語ぶつけまくりだから。実質デビュー作だったポワチエはそれ以外にも何かと親切にしてもらったと(トップ・ビリングはウィドマーク。ポワチエは助演扱い)、インタビューでウィドマークを絶賛してました。すっかり仲良くなったらしく、FOXから独立してからも「長い船団」「駆逐艦ベッドフォード作戦」など共演作がいくつもあります。対立する役が多いけど…
「長い船団」は普段とは逆?に、ウィドマークがヒーロー役でポワチエが凶悪なイスラムの王様を演じたんだけど、やっぱりポワチエの悪役って面白みがなかったなあと、ヒソカに思う私でしたが(^^;)

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