「馬上の二人」 “Two Rode Together”
1962年ジョン・フォード監督作品。
(日本盤出てないので英国版DVDで鑑賞。一度TVで見てるし)
西部劇だが、決闘も、インディアンの襲撃もない。
人間ドラマ、というべきだろうか。

昔コマンチに攫われた子供たちを白人社会へ取り戻すべく、コマンチ・インディアンの集落へ「取引」に向かう二人の男。とある街の保安官(ジェームズ・スチュアート)と旧友の騎兵隊中尉(リチャード・ウィドマーク)である。
ただし、攫われて9年が経過している。子どもたちはもう、ほとんど子どもではない…
白人社会に返してもらう「取引」は、比較的あっさりと成功するが、問題はそのあと。
残された家族達の悲願により開始されたミッションだが、コマンチの暮らしに溶け込み、何年もコマンチとして育ってきた彼らの姿に、呼び返した筈の白人社会が拒絶反応や偏見をあらわにするのが実に痛ましい。

性格の違う男ふたりのやりとりや、ロマンスや、A.ディバイン軍曹のコメディ・リリーフぶりなどは軽妙で楽しいし、終盤、リンチの悲劇に至るまでの経緯も実にスキのない「タイミング的にあまりに不運、だがこうなるしかッ!」な脚本であるが…ちょっと哀しすぎ。
エンディングでは、人間(白人?)は馬鹿が多すぎるけどそれでもその中頑張って強くまっすぐに生きていこうとする者たちもいるんだ!というメッセージが伝わってくる。
ただ、テーマ自体重すぎるもんね。軽妙な部分と悲劇な部分のバランスがびみょー?

ちなみに保安官は、100ドルの給料じゃとても足りん!と町中の店のあがりを一割徴収している厚顔な男。昔はヒョロっと軟弱で良心のカタマリのような役しかしなかったのに!と驚いてる人が多いみたいだけど、スチュアート、適当にユーモアも混ぜつつうまいこと演ってます。実際この人中年になってからは、執念の男とかハードな役柄をうまくこなしてるし別に不思議はないと思うな。そういう悪めいた男が、終盤、偏見に傷つけられる娘の支えになる…。オイシイ役である(笑)

対するウィドマーク中尉は保安官と逆に、安月給でも仕事一途で、実直かつ純情な男。保安官の言を借りると“a man of simple wants”。
冒頭、上司の命令で遥か遠くの砦から騎馬で保安官を迎えに来るのだが、体を叩くとモウモウと土埃が舞い上がり、自分も周囲も咳き込んだりする。何とも可愛らしく、開巻5分で善人っぷりがキッチリ判る。デビュー当初は逆に極悪人役が多かったけど、やっぱ役者だなぁ!(笑)騎兵隊の制服がまた似合って、軍人らしく実にビシっとした立ち姿をキメてくれるのがファンの私には嬉しい。近い時期の作品でも、「アラモ」の義勇軍リーダー・民間人冒険者ジム・ボウイとは姿勢や歩き方からして違う。

硬派だけれど優しい彼は、コマンチの集落から連れ帰るべき白人の内、娘と老女(こっちは想定外)が、帰りたくない!というのを無理強いできずに残して砦に戻る。彼女らがコマンチの妻にされていたからでもあるが、後で上司に「他人の苦しみを緩和しようと中途半端な事をすると、かえって苦しみを増すこともある」と諭される場面があった。善意の決断だったのだが、結果的には無理にでも連れ帰った方が良かったのかも。
結局彼が唯一連れ帰ることになった「攫われた少年」は(もう一人保安官と戻った女性は、今回の依頼とは別の時期別の土地で攫われた大人の娘なので事情が違うし)、英語などとうに忘れ、自分はコマンチだと叫んで暴れ続け、やがて事件を起こす。もし、もしも、「連れ戻された白人少年」が、たった一人でなければ、あと少し連れ戻されたほうも、迎える者たちも、反応が少しは違ったかもしれない。
…違わなかったかもしれない…。

音楽はイマイチ。TVムービーのような大味な曲でなく、もっと繊細な感じのメイン・テーマが欲しかったなあ。
軽妙な部分と、痛ましい部分の落差が結構大きいので、音楽がそのへんをうまく埋めてくれていたら、もっとよかったのに。残念です。

コメント

nophoto
DCP
2008年1月13日3:21

うーん残念ながら劇場名とポスターと誰と観たと言う以外は忘れてしまった。「捜索者」とか「シャイアン」と混同している部分もありそう。46年前ですもの。
音楽がプアーとの感想でしたが私も疑問に思う事があります。ずばり言うとフォード作品は内容は良いのに音楽に深みとか何か心は打つものがなく、結果後味がイマイチと言うのが案外ありませんか?。逆に言うと名曲(とまで言わなくても)ありますか?。「荒野の決闘」のクレメンタイと言われるかも知れませんがあれってオリジナルではないですよね?。
(「アラモ」だって「皆殺しの歌」(ホントはリオブラボーですが)聞かせるじゃないの)

ボースン
ボースン
2008年1月13日22:59

「シャイアン」でもRW氏は騎兵隊将校だから、写真だけみると見分けがつかないですね。テーマは「捜索者」とかぶるし。

音楽もねえ、メインテーマ以外は特にどうということもないんですよ。普通に演出に寄与してます。ただ、最後にあのメインテーマはイマイチなじまなくて…なんでこんな曲になったのかなあ?
フォード映画で有名な曲というとクレメンタインだの黄色いリボンだの?既存の民謡などはいつもうまく使われていたのに。残念です。

nophoto
さがみひいす
2011年5月3日11:18

主役二人の名演に名監督フォードさんの名演出!「馬上の二人」!
いやぁー素晴らしかったですよ!
何度観たか忘れましたが大好きです。みればみるほど。悲しい題材ですが、フォードさん流のユーモアもまじえた珠玉の名作西部劇!こういう西部劇はもう出ないでしょうか…。
ボースン様の>「人間(白人?)は馬鹿が多すぎるけどそれでもその中頑張って強くまっすぐに生きていこうとする者たちもいるんだ!というメッセージが伝わってくる。」読みました。
うーん!全く同感です!励ましのメッセージが素晴らしい。この物語。
あのラストもほっとして良い…
この映画にウィドマーク様を、続いて「シャイアン」のアーチャー大尉に!
…さすがフォード監督はお眼が高いですね(^O^)
お二人のウマが合ったというのもわかりますね。
やっぱ海外版でもDVD欲しい!!

ボースン
2011年5月7日22:50

フォード映画では、なんだか他と違ったすがすがしいキャラ立てがなされているウィドマーク様。
もう青年なトシじゃないのに、青年ぼくてステキです。不思議ですねえ(笑)

>悲しい題材ですが、フォードさん流のユーモアもまじえた珠玉の名作西部劇!こういう西部劇はもう出ないでしょうか…。

フォード映画が、なぜ午前十時の映画祭に二年続けていっぽんも入らないのか…
腹立ちます。

nophoto
オベリックス
2011年9月18日22:39

最近、オークションでLDを落札し、早速見ました。以前、イギリス盤DVDは購入していたんですが、やはり日本語で見たい、せめて字幕でもと思っていたので。
話は重いんですが、ウィドマークさんの“青年ぶり”が最高でした。実直で素朴で純情で、若くはないのに、そんな“青年ぶり”に嫌味もワザとらしさも感じさせないのがすごいです。
最初のほうの、川辺に座ってのスチュワートとのやりとりが一番好きなシーンです。確か長回しで撮っていたようですが、二人の間(ま)の取り方が実に心地よかったです。
そういえば、最後のほうのシーンで、連れ帰った少年を皆がリンチにしようとするのをウィドマークさんが止めようとしますね。でも、誰かに後ろから殴られてしまいます。映画を見てて、思わず「ウィドマークさんに何をするう!?」と叫んでしまいそうになりました。後ろからは、いけません。

ちなみにスチュワートの西部劇で一番好きなのは「折れた矢」です。これぞ“善良”というスチュワートが見られます。浦野光氏の吹替えも絶品でした。

ボースン
2011年9月18日23:24

>そういえば、最後のほうのシーンで、連れ帰った少年を皆がリンチにしようとするのをウィドマークさんが止めようとしますね。でも、誰かに後ろから殴られてしまいます。

「ウィド様、うしろ!うしろ!」


なにはともあれ字幕つき(吹替えも?)LDゲットおめでとうございます。
川辺の会話シーンはこの映画の白眉ですよね。二人の呼吸の合いっぷりが素晴らしい。
「折れた矢」は実は見ていないのですが、「折れた槍」とタイトルが似ているので見かけるたびに一瞬緊張してしまうタイトルです。私だけか?!

nophoto
オベリックス
2011年9月18日23:56

こんばんわ、ボースン様
「馬上の二人」の吹替え版は所持しておりません。分かりにくい文章で申し訳ありません。ただ、ウィドマークさん、スチュワートさんの顔合わせなら、本来は大塚周夫&浦野光コンビで見たかったなあという願望があるのに、手元には字幕版しかないということを言いたかったわけです。
ちなみに以前買った英国盤DVDは、恐らくボースン様が持ってらっしゃるのと同じだと思うのですが、やたらといろいろな言語の字幕が入っているんですよね。その割りに日本語がない…。
それにしてもウィドマークさん、初登場シーンの埃だらけの軍服姿もカッコ良いですが、その後の私服姿もこれまたカッコ良い。どのシーンだったか、早くも忘れたのですが(今日見たばかりなのに)、ふだん、ウィドマークさんって帽子を目深にかぶったりしないという印象ですが、なんか、目深にかぶってたシーンがあって、ああいう被り方も似合うんだあ、と妙に感心してしまいました。

「折れた矢」はかなり昔、テレビで見て、好きになっていたので、私は逆に長い間、LDショップなどで「折れた槍」のタイトルを見かけるたびに一瞬緊張しておりました。

ボースン
2011年9月19日11:44

失礼しました。吹き替えなし日本語字幕版ですね。了解です。

>やたらといろいろな言語の字幕が入っているんですよね。その割りに日本語がない…。

ヨーロッパ仕様なんですかね。まあ、最近では、英語字幕だけでもあればオンの字だと思い始めました(弱腰)。英国盤より米国盤のほうが字幕は充実していることが多かったのですが、最近いろいろ出だした"アーカイヴズ"要するにオンデマンド盤はちーとも字幕がないみたいなので…せっかくDVD化されても初見の映画だと結構辛いものがあります。

>ふだん、ウィドマークさんって帽子を目深にかぶったりしないという印象ですが、

西部劇だとそうかもしれませんね。が、ノワールやサスペンスではソフト帽を目深にかぶっているシーンは割とありました。もちろん!!!カッコイイです。

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