第二次世界大戦下、ドイツ軍による連合軍捕虜収容所を舞台にした名匠ビリー・ワイルダー監督による人間ドラマ。抜け目のないアメリカ人捕虜のセフトン(ウィリアム・ホールデン)は捕虜仲間たちから敵に内通しているのではないかと疑われ、やがてリンチを受けるが…。
「腐ってもワイルダー」という言葉が私の脳内辞書にはあるが、これは堂々の「流石はワイルダー」のクチである。
第二次大戦中ドイツ某所の、アメリカ軍の軍曹たちを集めた捕虜収容所。
捕虜の一人が「戦争映画というと軍艦乗りやら戦闘機乗りやらフロッグメンやら、…捕虜のことなんか映画じゃやらない」とボヤくのがオープニング。
そう、「大脱走」より10年は早いんです、この映画。
そして、不自由な中にも捕虜たちはあれこれ工夫して気晴らしを演出したり、励ましあったり、組織を作って脱走計画を練ったり(失敗すれば当然撃ち殺される)、もちろんヤケに要領よく立ち回る奴もいて。
そんな、暗い非日常を、ぴりっと辛めにユーモラスな描写をちりばめて描くワイルダーの手腕は、いつもの通り快調だ。
気のいい大男アニマル(ロバート・ストラウス)と面倒見のいい相棒ハリー(ハーヴェイ・レンベック)のやりとりはいつでも漫才。ドイツ兵の眼をかすめて色々なモノを調達したり使いまわしたりのテクもニヤリとさせる。
そんな中でも圧巻なのが、収容所一要領がいいとされるセフトン(ウィリアム・ホールデン)の考え出すあの手この手の「商売」だ。密造酒バー、レース場、そして…(未見の人のため、詳細はあえて言いますまい♪)
配給のタバコを通貨代わりに、ドイツ兵からも様々な品をチャッカリ調達。
ひとりでイイモノ食いやがって!と毒づかれても、「ここへ来てすぐ服や持ち物を盗まれた。頼れるものは自分だけさ」とセフトンはうそぶく。
前半はかなりのコメディタッチだ。
しかし、スパイと疑われてリンチを受け、完全に孤立したセフトンを描く後半は、コメディというよりは完全なサスペンス。
スパイの正体は、実は観客のほうがちょっと先に知ることになる。だが、それはいかにして明るみに出されるのか、セフトンはどう動くのか…
着実に積み上げられてゆくサスペンスと人間描写が、もう息もつかせぬ緻密さで迫る。
コメディの巨匠として知られるワイルダーだが、彼の「硬派」の一面を存分に味わえました♪
そして、ハードボイルドなホールデンの演技がなかなかよろしい。
危険なんか嫌だ、あとは収容所内で要領よく、楽にすごすだけさ、といい放つ彼。
金持ちの将校に「お前は金があったから任官できた、自分はないから将校試験を落とされたんだ」と嫌味を言うひねくれ根性は、収容所以後強まったのかその前からなのかはわからない。
が、最後に、自分の命を賭けて行動に移るセフトンに心を動かされ、じんわり爽やかな後味が残るのは、それまで後ろ向けだったのが「一歩、前に進んだ」男の姿が、実に鮮やかだからだろう。
中盤までのセフトンは、かなり突き放した口調で語られ続けてきた。主人公といえるだろうが(そして何かと面白いことをやらかす男なのだが)、観客にも仲間にも、決して好かれる人間ではない。
それだけにエンディングの開放感が、いっそう爽快だ。
ビリー・ワイルダーならではの、絶妙のバランス感覚に喝采!である。
モノクロで、一見地味げなこの映画。
ワイルダー・ファンとしては、当然見たいと思いつつ見そびれていたのだけど、もっとさっさと見ればよかった!
アカデミー賞もむべなるかなです。
いや、コレに限らず、やたらと沢山取ってるんですがワイルダーさんは…(^^;)
もとは舞台劇らしいが、どうせシナリオにはワイルダーの手がいっぱい入って変わりまくってたりするのかもね。
最近は500円DVDで出たり、YAHOOの無料動画にもあったりするみたい。未見のヒトはぜひ(*^^*)
DVD パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン 2005/03/25 ¥1,575
コメント
安物旧ソファにへたばって気軽に見始めましたが(新しいのが来るのは来月!)、後半は背筋を伸ばし首を伸ばして一心不乱に見ておりましたよ。流石はワイルダー!
どんな趣味でも打ち込むとそれなりに体力は要りますよね☆健康にはお互い注意しましょう!