夜は夜もすがら
夜は夜もすがら
夜は夜もすがら
1956年、ロバート・ルイス監督作品。カラー。

ブロードウェイのベテラン・ビル(ビング・クロスビー)とTVショーで人気が出たテッド(ドナルド・オコナー)は、次の舞台で共演することになった。あとは主演女優(一人)を決めるだけだが、ビルは英国でパッツィ(ミッツィ・ゲイナー)を、テッドはパリでギャビー(ジジ・ジャンメール)をほぼ同時に見出し主演を約束したからさあ大変。NYへ向かう豪華客船の中、頭を悩ませる男二人と何も知らない女二人、4人の思惑と恋心が錯綜する。

米盤DVD(英語字幕あり)で鑑賞。数少ない日本公開済ドナルド・オコナー出演ミュージカルだが、正直この脚本、もって回ったセリフが多い。曲名だって"Anything Goes"だの"I Got a Kick of You"などと、そのへんの日本人(=私)には「どーゆー意味?」と戸惑うような題のものが多い。いつになく字幕の読み取りに手間取り特に前半もたついた。(辞書片手ではねえ…)。パッツィの父親も官憲に睨まれている気配だが詳細が理解できない。多分、脱税容疑だと思うんだけど。日本盤、…出ないかなあ(泣)

舞台からの二度目の映画化だが、元の脚本に大好きなP.G.ウッドハウス(英国のユーモア作家)が噛んでいるのが原因でセリフが凝っていたり口語的だったりするのかもしれない。AがBに言った言い回しをBがCに対して使うという繰り返しのクスグリも、じっくり観直すと散見されるイイ台詞も思えばウッドハウス調なような。話自体はたわいもないし、たわいもない話で爆笑させるのがウッドハウスの筆力なのだが(少なくとも小説はそうだ)、イマイチ物語がダラダラして面白くならないのは脚色のシドニー・シェルダンのせいか監督のせいか。

舞台オリジナルのコール・ポーターの曲(あまりキャッチーでないものが多い)に、サミー・カーン&ジェームズ・ヴァン・ヒューゼンの3曲が追加されている。
何はともあれキャストは豪華で、楽しいナンバーは多い。最初のナンバーは、クロスビーとオコナーが初顔合わせで歌い踊る"Ya Gotta Give The People Hoke"。定番ギャグ(パイ投げとか)を称えるコミックソング。
ちなみに初対面のテッドはビルに「こんなに(自分の腿のへんを示しつつ)、小さい頃からファンだったんです」と熱く語りかけ、ビルを渋面にする。「バンド・ワゴン」のチャリシー&アステアの初対面シーンを連想した(笑)実は子役出身のオコナー、12才の時既に一度ビング(当時35才)と共演済なのだ。兄弟役だが「父親的なイメージが出来てしまっていたので「夜は…」の"友人兼パートナー役"は最初やりづらかった」との話も読んだことがある。

続いては主演女優候補たちのお目見え。まずゲイナーがタイツでピチピチと歌い踊る"Anything Goes"。キュートだ。スタイルいいなぁゲイナー。柔らかそーな背中のライン、キュッと締まったウェストとまあるい腰つき、それと相反する?親しみやすい笑顔で、セクシーでかつ可愛いぞ!パリのジャンメール"I Got a Kick of You"はボーイッシュな黒い衣装でポージングが格好いい。ただ、このテのモダンバレエっぽさ(ローラン・プティの奥さんだったんですね)やシャンソンぽいアルト声は、あまり私の趣味ではない、スミマセン。シャツ襟は似合うが肩の開いたドレスは似合わないし…(だって肩ガッチリしてるから)

"You’re The Top"は船内の隣り合うジム二室で、ビルとパッツイ、テッドとギャビーが隣室の様子に気づかぬまま同時に歌い踊る。クロスビー一人が踊れないというナンバー(笑)ジャンメールはここの踊りが一番さらっとして好み。

漸く4人が揃ってみると、テッドとパッツィ、ビルとギャビーの間に恋の灯がともり、主演女優を一人に絞るのが一層難しくなる。甲板でオコナー&ゲイナーの踊る"It’s De-lovely"は明るい中にも初々しいロマンチックさがあり魅力的。恥じらうゲイナーはピンクの薔薇のつぼみのよう、テレっとしたオコナーも可愛いし、私はこういう清潔感のあるダンスが好きなのだ。クロスビーはエキゾチックな旋律の"All Through The Night"を歌い(意味不明の邦題はこの歌から来たか?)、ジャンメールはチュチュ着て(空想の中で)踊る。ただ、この手のバレエっぽさ以下略。

オコナーには"You Can Bounce Right Back"という楽しいソロもある。遊戯室の子供たちとゴムボールを投げっこしながらのタップの妙技には見惚れるしかない。

"A Second Hand Turban And A Crystal Ball"は、誤解や何やで引きこもってしまった女性陣を引っ張り出すべくビルとテッドが船内で企画する特別ショー。歌う似非マジシャンに扮したクロスビーが、珍道中シリーズ以来定評ある胡散臭さ全開で飛ばしまくり(笑)、それをおとなしくボケ役に徹したオコナーがガッチリ支えて、あまり意味もなくダラダラした場面…と思いつつも妙なおかしさに満ちている。
案外ラストの"Blow Gabriel Blow"より良いかも。四人が歌い踊るエンディング曲だが、羽の動く帽子が可愛い(それだけか)。

クロスビーのパラマウントでの最後の映画だそうな。最後の二曲は特に彼をたててる感強し。
私はオコナー見たさでDVD買ったのだが、誰のためにもあと少し、脚本や演出がしゃきっとしていればなぁ。そんなに長々と悩まなくても、二人もタレントを見つけたなら脚本を書きかえればいいじゃん、って、誰でも思いつくし。まあそれでも、出演者の芸が見たい、と思えば見てソンはないだろう作品(ミュージカルナンバーがなければ★2)。

ただ、オコナーとクロスビーの間のケミストリーは期待ほどでない。テナーどうし、音域声質が比較的近いのが裏目に出たか、デュエットだとオコナーの味が目立たなくなる傾向が。私はオコナーの声の方が好きなくらいなのだけど。彼はダンサーにしては非常に綺麗な声とテクの持ち主だと思うが、天下のビング・クロスビーと全く同じ土俵に上がれというのは酷でしょう(もっとヘタだったり声質がかけ離れている方が味が出たろう)。勿論一緒に踊ればオコナーの身ごなしが目立つのだがそれは当り前、引き立て合ってこそ“ケミストリー”。大歌手との競演でも"Call me Madam"でのエセル・マーマン(アルト。舞台版Anything Goesにも主演したとか)との歌のケミストリーは素晴らしかったのだが。

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