高城高著。

明治24年の函館。
維新のどさくさに様々な人物が流れ込んだそこは、欧米や中国の船が多数寄港する、国際港湾都市でもあった。湾岸部を担当する水上署には、いきおい外国語に堪能な者が求められる。
署長は、ロシア語は巧いが山形弁の抜けない元士族。実質的に所轄を率いる"次席"こと五条警部は、若い頃アメリカ西部を放浪し、そこで知り合ったボヘミア貴族にフェンシング(サーベル)の奥義を教わったという経歴を持つ変り種。部下たちも語学力には腕に覚えあり。
多彩なのは船籍だけではない。ラッコやオットセイを狩る密漁船も来れば一国の東洋艦隊も避暑にと立ち寄る。事件が起こると各国公使館にお伺いをたてつつ、苦労しながら進めることも…

登場人物の設定は一見派手だが、実録風に地味ィに当時の雰囲気描写を追及した、連作歴史警察小説。一話目ではあまりの地味さにちょっとグラついたが二話、三話と読み進むうちに次第に引き込まれる。最後には四話しかないのが残念な気持ちに。あと一本収録されている中編は、シリーズの数年前の設定で函館を訪れた(これは史実)軍医森林太郎(鴎外)の視点による物語。
カナダの密漁船の話は、ちょっとグレゴリー・ペックの「世界を彼の腕に」を思い出した(時代だって近い)。いや、ペックみたいなカッコイイ密漁船船長なんて現実にはありえないんだよな、という意味で…(笑)

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