殺人幻想曲

2010年6月15日 映画
1948年、プレストン・スタージェス監督作品。モノクロ。

レックス・ハリスンだし、プレストン・スタージェスだしで気になっていたけどなかなか見なかったのは、珍しいハリスンの口ヒゲのため。彼は結構お気に入りだがこのヒゲはどーかなー…と…。まあ、見ているうちに次第にそれほど気にならなくなったけど(よくいえばエロール・フリン風)。

世界的に有名な英国人指揮者アルフレッド(ハリスン)は若く美しい妻ダフネ(リンダ・ダーネル)にベタ惚れ。ところが彼の海外公演中、若くハンサムな秘書の部屋を彼女が深夜に訪れていたらしいという話を聞く。アルフレッドは指揮をしながら、演奏会が終わったら二人をどうしてくれようと、危険な空想妄想をたぎらせる。曲が変わるたび気分も変わって、完全犯罪の計画を練ったり許す気になったりと忙しいが、演奏自体はなぜかどの曲も絶好調。熱狂してアンコールを求める聴衆を放り出し、自宅に飛んで帰ったアルフレッドは…

リンダ・ダーネルは綺麗だけれど(ただ私の趣味ではない)、もう全編ハリスンの独り舞台。冒頭の愛妻ベタベタぶりはもう呆れるしかないザマなのだけれど、オケのリハーサルに出ると一変して見事にカッコイイ指揮者ぶりを見せてくれ、私はここですっかり嬉しくなってしまいましたね。結構子供じみた人物なんだけど「指揮者としてはホンモノです」感を抜かりなく示してくれる一幕で、コレがないとタダのアホ中年ですからね。指揮棒振りつつ景気よく指示を飛ばし、髪も振り乱し、ノリノリ感が凄いです(曲はロッシーニのセミラーミデ)。やっぱ上手いなハリスン。ここでは主人公まだ不倫疑惑に至ってないですしね。

不倫疑惑へ至るまでだけでも大騒ぎ。プライドの高い彼は、義弟が探偵を雇ったと聞いて怒り心頭、報告書は読もうともせず、破って焼いてボヤを出すわ、文句を言いに探偵社まで乗り込むわ。探偵社の社長がクラシックマニアなのが更に笑わせますが、それで調子を崩されたスキに、聞きたくなかった報告書の中身をサラッと口に出されてしまう。

ショックを受けた指揮者の豹変ぶりがまた極端、現実と妄想を自由に行き来するハイテンションなコメディだ。スタージェス監督、達者なハリスンにもう好きなだけ突っ走らせてる感じ(笑)

妻と間男を葬り去る完全犯罪計画に高笑いしながらロッシーニを振り切ると、二曲目はワグナーのタンホイザー序曲。突然「二人の愛を許そう」と毅然と身を引くパターンの妄想に浸りはじめるアルフレッドがまた可笑しい。スタージェス、タンホイザー好きなんだなあ…、「レディ・イヴ」でもバーバラ・スタンウィックがハネムーン中突然「乱れた過去の懺悔(大ウソなのだが)」を始めるシーンでバックに切々とタンホイザーが流れていた。欧米人には「分かりやすいギャグ」なのだろうか。肉欲の愛と清らかな愛、そして許しがテーマなんだっけこのオペラ…きちんと見たことはないけれど(笑)

三曲目(チャイコフスキー!)の妄想は未見の人のために伏せておくとして(笑)、まあご想像通り、妄想の実行はなかなかスムーズにいきません。ドタバタがエスカレートする終盤はちょっとダレそうになるけれど、最後までハリスンの演技にメリハリが効いているので割と急転直下なエンディングもストンとはまって気持ちよく見れました。

ハリスンの独特のセリフ回しや演技が嫌いな人には薦められないが、面白かったです。

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