1977年、メル・ブルックス監督作品。カラー。
米盤BD"Mel Brooks Collection (BD9枚組)"にて観賞。英語字幕のみ(爆)
(「今日だけバーゲン!25ドル」てDMで、つい魔がさして買った…既に半分くらいは日本盤やTVの録画持ってるのに)

邦題からも明々白々なとおり、ヒッチコック・パロディなサスペンス・コメディ。ブルックスのコメディは、ちょっと泥臭いとか言われることがあるし。特にジーン・ワイルダーを使わず監督自ら主演した場合など、少々モッタリした印象もある。神経症的な不思議な個性のワイルダーに比べると、ブルックスってすごくフツーのずんぐりむっくりの(わりと温厚な)オッサン、という風貌だしね。
でも、このフツーなあたたかみはブルックスのイイとこだとも思う。彼のパロディからはいつも映画愛がシッカリ放射されているんだものね。

冒頭、ゆっくりと空港へと舞い降りるジェット機(今は亡きTWA機)にかぶさる、メイン・テーマが素晴らしい。バーナード・ハーマン調の不協和音を多用し、しかし途中で一時短調から長調へと転調するあたりのオーケストレーションがまた一種の懐かしさを覚えさせられる。ブルックス映画、音楽方面では絶対ハズレがない。降下中の機内で引きつっている主人公ソーンダイク(ブルックス)の描写はベタそのものだが(笑)

彼は、西海岸のとある精神病院の新任院長として赴任してきた医学博士(高所恐怖症という弱点あり)。空港でのいくつかのドタバタ、ギャグを経てたどりついた病院は、悪徳副院長(ハーヴェイ・コーマン)と怖い婦長(クロリス・リーチマン)が牛耳っていた。怪しい事件が続くが、ソーンダイクは結構簡単にゴマかされて、運転手ブロフィ(ロン・ケアリー)とサンフランシスコの学会へ出張。そこで入院患者の娘ヴィクトリア(マデリン・カーン)と出会ったことからソーンダイクは副院長らの悪事を知るが、彼には殺し屋(ルディ・デ・ルカ)の魔手が迫っていた!

ヒッチ好みのカメラワークや構図、ショットなどをイジくった映画マニア向けパロディもあれば、下ネタ、エロネタ、ドタバタも…と、盛り込まれた笑いのレベルはさまざまで盛りだくさん。意味を掴みきれなかったり気が付いてないものもあるんだろうな。たとえば学会の演壇の後ろに、フロイト、ユング、アドラーなど精神分析の重鎮のどデカイ写真が何枚も飾ってあるところ、うさんくさいなーと感じ、右端の女性の写真に"BROTHERS"と書かれていたが知らない名だしと念の為ぐぐってみた。どうも、Doris Brothers というそれなりに著名な精神科医が存在するようである。ただ、写真が美人すぎる…
はっ!ドリス・デイの写真なんじゃないかコレ!!…なるほど…

ブロンドに染めたマデリン・カーンは笑えた。ヒッチ映画のヒロインにあるまじき下世話さもチラ見せしつつ好演。ブランドのバッグ片手にサスペンスフルに登場するが、あとで全くそれと同じブランド模様の悪趣味な車から、全身ブランド模様のスーツで降りてきたのには眩暈がした(笑)
「サイコ」のシャワーシーンも、アホっぽいが大変丁寧に出来ているし、罠にハメられた主人公の無実の証拠を見つけ出す場面なども大げさだけど結構盛り上がる。

しかし、一番楽しかった、イイ場面というのは実はナイトクラブで主人公がマイク渡され一曲歌う、というところ。照れくさげに立ちあがった癖に、派手なマイクパフォーマンスや客イジリをまじえつつ、フランク・シナトラばりに主題歌"High Anxiety"を熱唱するのだが、これが実にお見事。ストーリー上、まったく必要でも何でもないシーンだが(主人公がヒロインと親しみを増すためのシーン、というだけ)、忘れ難い楽しさおかしさに満ちている。シナトラ風というのは、昔劇場公開前に雑誌の評に載っていなかったら気づかなかったかもしれないのだが、今再見すると、ほんとに納得。記憶してたより更にイイ。大袈裟すぎない大袈裟さ、ほどよい誇張、至芸である。思わず、あとでもう一度この場面を見直してしまった。もちろん、この曲は作詞作曲もブルックスだ。

この「新サイコ」は大昔、映画館でも見たことがある。「ヤング・フランケンシュタイン」や「ブレージンク゜・サドル」のようなクレイジーさはなく(どちらもワイルダーをフィーチャーした傑作)、マッタリと中程度な出来という印象が残っていたが、逆に言うと、ハメをはずしすぎず感じよくまとまった一作…だとも言えるかも…
意外なくらい、常識的な人物ですし。ソーンダイク博士って…

疲れてて、ほっこりしたい時に見るといいかな(*^^*)
ヒッチ映画を有る程度見てる人に、よりオススメ。
★4つは、熱唱にこたえてちょっとオマケ。

(トレイラー:後半に、歌うシーンも少し出て来ます)

http://www.youtube.com/watch?v=RsJE8sYoe0E


<追記>
他にもブルックス・ファンに楽しいリンクがあったのでリンクを追加。

◎ミュージカル・トリビュート(ブルックス映画の歌曲をちりばめたもの)
http://www.youtube.com/watch?v=R7BLrVTouG8
どうやらトニー賞受賞時のライブのよう。ブルックスのすぐ近くにオバマ夫妻がいて大笑い中!ブルックス映画を知ってる人に見て欲しいです。おかしくて毒もある才気あふれるショウ場面はこの舞台のために工夫されたものでなく、既存のブルックス演出からいただいて再現orアレンジされたものだと知らないと、ブルックス監督が気の毒ですし。最後に「プロデューサーズ」のマシュー・ブロデリックが歌ってまとめ、監督がホロリとした顔になるのが見もの。

◎Hitler Rap
http://www.youtube.com/watch?v=yu2NqfISm9k
よくわからないのだけど「メル・ブルックスの大脱走(To be or not to be)」のために作って使わなかったものなのかなあ。ユダヤ系な彼の毒吐きナンバーの中でもモダンな感じですね~

◎Mel’s impressions of Bogart & Cagney & Sinatra
http://www.youtube.com/watch?v=nK7rR7ySPrY
TV出演時のもの。すいません、最初トレイラーのリンクこっちと間違ってましたm(__)m
一応残しておきます。シナトラの歌マネもしてます。

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