渦巻

2013年2月4日 映画 コメント (2)
渦巻
渦巻
渦巻
WOWWOWで去年録画していた英国クラシック映画の一本。
原題が、’I Know Where I’m Going !’

1945年、マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガー監督作品。モノクロ。

ジョーン(ウェンディ・ヒラー)は子どもの頃から、「自分が欲しいものが何かちゃんと分かっており、一途に邁進する娘」だった。親にも相談せず独力で玉の輿(父親ほどの年の会社社長)をつかみ、結婚式のためスコットランドの島の彼の別荘へと向かうが、荒天のため海を渡れず、近くの港に何日も滞在するはめになって…

一直線にハイハイする赤ん坊が妙齢の勝気なお嬢さんになるまで、の皮肉めいたナレーションと映像がアヴァンタイトルとなり、途中でクローズアップされる看板や扉にキャスト・スタッフの名前が書かれている。凝ったコミカルなクレジットタイトルだが、物語本編は、特に笑いを取りに来てはいない。
中産階級出のドライなモダン・ガールのヒロインは、寝台車で見る夢からすると、婚約者に惚れこんでというより「社長夫人になること」が望みな様子。但し、待っても待っても婚約者は画面になかなか登場しないし、彼についてヒロインの口から語られることは殆どない。島の人間からチラリと揶揄的に語られる程度だ。

「待つこと」しか出来なくなったヒロインは、地元出身の海軍将校トークィル(ロジャー・リヴゼイ)の控えめな案内により、スコットランドの自然や、素朴な土地の人々と触れ合いながら天候回復を待つのだが、次第に焦りを覚え始めて、無理な渡海を試みる…。内面描写を排した、不親切(笑)な語り口の映画だが、スコットランドの荒々しい自然が美しすぎて、普通とうとつに感じるであろうヒロインの回心にありえない説得力が生まれているというフシギな映画だった。土地に対する愛情を隠さない素朴な人々の暮らしにも、ヒロインの心を揺さぶる魅力がにじんでいる。英国人てだいたい田舎を大事にするんだよね。それも、田舎だからイイ人とかいうことでなく、頑固さやひねくれぶりも合わせて田舎と「田舎の生き方」を尊重していると思う。

ドライな娘からエンディングでのしっとり感へと急変するウェンディ・ヒラーもさすがに上手いというべきか。細身で、一重瞼と高い頬骨の地味目なルックス。まさに英国版キャサリン・ヘプバーンてな感じですね。それをひたすら受けの芝居で包むリヴゼイもいたって地味なルックスだけど、終わってみると立派なヒーロー…。しかも映画の半分は、キルトはいてます。いや大したことではないんですが…
ギリギリまで絞りに絞った、90分ちょっとの短さが丁度いい感じの演出でした。

それにしても、モノクロなんだけど、自然が凄すぎる。クライマックスでは欧州髄一の大渦巻に飲み込まれそうになる危機も。
ちょっと鳴門の渦潮を見に行った時のことを思い出した。いやそれよりも!!

荒涼とした、しかし野趣あふれる美しさの自然、霧にけぶる鄙びた港、風雪に耐えて残った風情のちっぽけな古城たち。素晴らしい。そして実は私、ン十年前に夫と短い英国旅行をした際、スコットランドに列車で行って、西海岸のマレイグから船でスカイ島に渡ったこともあるのですが、序盤のヒロインの旅の風景には、思わず「うおおおおお!」と吠えまくりましたね。な、懐かしい~!(そしてモノクロなのがかえって美しいという、この映画の映像の素晴らしさ。曇り空でも、リアル曇り空より「美しく撮影された曇り空」のほうが更に魅力的なんだよね…。スコットランド、曇ってる時は容赦なく暗いですからねー…スカイ島では好天に恵まれて、ピカピカに明るい魅力も堪能しましたが)

私が生まれる前の映画というのに、あまり夜行列車の雰囲気が変わっていないのにも苦笑しますが、映画の婚約者のいる島も、スカイ島と同じヘブリディーズ諸島。すぐ近場じゃないか。おんなじような感じなのも無理はない。あああ、あとで、地図とアルバムを見直してみよう!

英国、特にスコットランドに愛や憧れを抱く人には絶対のオススメ映画です。
魚臭い田舎の港町、ずんぐりと素朴なシルエットの緑深い山と谷…けれども何ともいえない魅力があるスコットランドの、大自然と頑固な暮らしに敬意を表して★4!

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