バルカン超特急

2011年1月17日 映画
1938年、アルフレッド・ヒッチコック監督作品。モノクロ。

中欧の小国、バンドリカ。
雪崩で国際列車のダイヤは乱れ、出国予定の人々もホテルも混乱の極み。
そんなコミカルな描写のなか、翌朝には列車に乗り合わせることになる英国人たちが次々と紹介されていく。結婚式を間近に控えた富豪令嬢、遅れに苛立つ紳士二人組、訳ありげなカップル、人のよさそうなオバサン、風変わりで図々しいがスマートな青年…

一夜明けて、令嬢アイリス(マーガレット・ロックウッド)は駅で頭を打ち少々具合が悪いところを家庭教師のミス・フロイ(デイム・メイ・ウィッティ)に介護されつつ乗車する。が、うたたねの後気づくと彼女はどこにもいない。それどころか他の乗客たちも食堂車のボーイも、ミス・フロイなど見ていないと主張する。乗り合わせた医師(ポール・ルーカス)も"頭の負傷のための錯覚・幻覚でしょう"と一蹴するが、納得できない彼女は、昨夜ケンカしたギルバート(マイケル・レッドグレーブ)と共に車内の捜索に乗り出す。
なぜミス・フロイは消えたのか、それを隠すのは何故なのか。
それが判明する頃には、英国人たちは力を合わせて国外脱出のため戦わねばならなくなる。
コメディ・タッチのスパイ・サスペンス/アドヴェンチャー。

ヒッチコック作品の中では明るく曇りの少ない作品だと思う。渡米前の作品なのでキャスティングは地味めだし、英国魂マンセーな筋立てだが、登場人物の個性描写や伏線が丁寧に散りばめられていて感じよく仕上がっている。
謀略に加担して嘘をつく人物もいれば、たまたま自分たちの都合に合致して「知らない」と突き放す人物もいて納得の展開。「誰に聞いても"知らない"と返ってくる」状況というのは近年にも「フライトプラン」があるが、アレは、犯人以外の人々まで"知らない"と答えているのをきちんと説明付けないまま最後まで突っ走るのでちょっと呆れた。
まあ、この「バルカン超特急」にも、終盤あと一人車内にザコ敵が残ってたのにどうなったんだー、てな省略?があるけれど、こちらはまだ些細なことと言える。

日本公開までも半世紀かかった作品だが、その時以来ン十年ぶりの再見である。実はこの映画が見たいというよりは(私はあまりヒッチコック好きではない)、クリケットマニアの二人組紳士を再見したかったのだった。なぜかって?最近、「ミュンヘンへの夜行列車」なる、同じ脚本家の手によるサスペンス映画の日本版DVDが出たからだ。
ロンドンでの試合に間に合いたくて帰国を急いでいたこの二人組(役名はチャータース&カルディコット)、よほど観客にウケたらしく、なんと、「ミュンヘン…」の中にも同じ二人組が登場するそうなのだ(笑)

クリケット命のバカ二人と思いきや、意外に危機に際しては"使える"彼ら、土壇場で肝の据わった所を見せる彼らは、頼もしきジョン・ブル魂の具現でもあろう。ウケたというのもわからんでもない…いい味だしてましたよ、ノーントン・ウェイン&ベイジル・ラドフォード。
ちなみにこの二人組、Imdbで見てみると、驚いたことに他にも2本の映画に同じキャストで登場しているらしい。"Millions Like Us"とか"Crook’s Tour"とか、日本未公開くさいですが(前者のみシドニー・ギリアット監督作品。だが後者では二人組が主役らしい)。ラジオドラマにも登場したり、あろうことか、80年代にはズバリ"Charters & Caldicott"というTVシリーズまで作られた模様。さすがにコレは別の人が演じてるようですが、すごいなあ…

凄腕スパイが一見おっとり人のよさげなオバサン、てのもイギリス的でイイ感じ。
ヒロインはキリっとした美人さんで、ヒーロー・レッドグレーブは口ひげが何だかちょっとエロール・フリンを連想する。図々しいめのヤンチャ青年ぶりが連想させるのかなあ。フリンだとさらにいいかもなあ(取っ組み合いシーンでアッサリ相手をのしてしまってサスペンス映画がアクション映画になってしまいそうですが)。

「バルカン超特急」の明るい楽しさは、ヒッチ先生より案外脚本シドニー・ギリアットの力によるものなのかもしれない(なにせ私はあまりヒッチ…以下略)。

「ミュンヘン…」の監督は、これも名匠キャロル・リード。それよりなにより主演がレックス・ハリスン。もうすぐ届く予定なんですが、楽しみです…☆

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