1949年、ロバート・ヘイマー監督作品。イギリス映画、モノクロ。

イギリス式ユーモアというヤツは奥深い。堅苦しいと見られる国民性が、逆に“常識”をぶち破る際の爆発力をスケールアップするのかもしれない。特にブラックな方向に行くとその階級感覚もあいまって、そりゃもう洗練のきわみである。

この物語もブラック・コメディと聞いていたのだが、駆け落ち結婚した母と自分を冷たくあしらった公爵家(実家)に復讐するため、存命の親戚を片っ端から殺害して回る青年の物語が、ひたすら優雅に描かれる。もはや「吹き出す」ようなスキなどありはしない。ウィットはあってもギャグはいずこに?笑っていいのか悪いのか、ビミョーな宙づり気分のままどんどん話は進んでゆくが、話がどこへ転がってゆくのか、どうにも目が離せない!コメディではなくブラック・ユーモア・サスペンスとでも称した方が勘違いしなくていいかもしれない。

冒頭、時代は1868年。主人公ルイ(デニス・プライス)は、公爵位こそ継いでいるが収監され明日に死刑を控えている。「公爵を処刑するなんて初めてだ、何とお呼びすれば…」などと妙な困り方をしている看守らを尻目に、落ち着いた物腰でペンをとり“これまでのいきさつ”を文章にしたためる彼の回想で話は進む。モーツァルトの軽やかな旋律に乗せて。

この映画、「アレック・ギネスが扮装を凝らして被害者全員、8役を演じた映画」として一番知られているのだろうが、このプライスの、終始人を食ったとことんお上品ぶりっこな物腰が実に素晴らしい。勿論ギネスも上手いが主役はやっぱりプライスである(そのようなゼイタクな使い方をする制作側も制作側だが…キャスティングのみがギャグなのか?)。ばたばた人死にが出る合間に、主人公はタイプの違う二人の女性(小悪魔なジョーン・グリーンウッドと気品あるヴァレリー・ホブソン)に求愛し、この恋の行方もまたスリリング。

英国以外でなければ決して生まれっこないであろう、特殊(笑)な優雅さに満ちた佳品。
モノクロだが実に美麗な画面にウットリ。クラシック英国がお好きなムキには特にオススメ!

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