1953年、リチャード・ブルックス監督作品。字幕なしDVD-Rで鑑賞。
VHSもDVDも国内外ともに出てないようなのでネタバレで…。
テキサスの新兵訓練所。一糸乱れず行進し駅へ向かう部隊と入れ替わりに、もぞもぞと落ち着かぬ様子でやってきた若者たちを、指導教官ライアン軍曹(リチャード・ウィドマーク)が一喝する。
"You will never make it!"
絵に描いたような鬼軍曹である。右も左もわからぬ若者たちを罵り、嘲り、叱咤して、彼らの恨みを一身に受けつつ規定の16週間をしごきまくり「とりあえず一人前(戦場に送れる状態)」にするのが彼の仕事。映画のファーストシーンは歩兵部隊の先頭に立って高地を攻め陥とすライアンの雄姿(物語の2年前)であり、当人は何度も前線への異動希望を出しているらしいが、「16週間しかないのだから」と、今の職務への打ち込みも本物。
物語は、主として新兵たちの訓練風景と、彼らの物覚えの悪さやいい加減さや悪戯(マジメな者もいるが)にかんしゃくを起こしまくるライアンとの掛け合いで進んでゆく。本物の戦闘シーンはもう出てこない。
千変万化する表情と声音(ラジオドラマ出身なだけはある)、いつものキビキビした身ごなしをさらに徹底させて押しまくるウィドマークがまさに快演、カンシャクを時には景気よく爆発させ、時にはぐっとこらえながら、身を捨ててまでのコワモテで「漢のド根性を見せ付ける」ことで新兵たちを引っ張ってゆく。教育係の軍曹は訓練中は基本怒っているし意地悪だ、というのは、「フルメタル・ジャケット」等で昨今の観客は皆ご承知だろうが、ここでのウィドマークの爆発は時にニヤリとさせる可笑しみをにじませるし、どうにかこうにか「仕上げられ」る新兵たちは、最後には、耐え抜いたぞという思いに嬉しそうに胸を張っている。男っぽいさわやかさが漂う作品といえよう。
特に、新兵たちの中でも一番口の減らない道化者ラス・タンブリンとのやりとりは、まるで漫才のよう。出てきた時からツッコミを待つが如き妙な柄のセーターを着た彼は、お得意のバック転なども披露して目立つ役どころ。その一方で真剣に落ち込んだりノイローゼになる新兵もいる。怒鳴っても罵っても動かなくなった一人は終盤ついに脱走を図る。勿論出口近くには渋い顔のライアンがしっかり先回りしている。が、脱走兵として厳罰が!と思いきや、彼はただ「人生を棒にふる覚悟が本当にあるのか?」と諭し、新兵をキャンプに連れ戻るだけだ。いぶかる相手に彼は「自分の父も脱走兵だった」と告げる。ぽつりと、「俺の"red wagon"かな…いや、何でもない」と呟く鬼軍曹に人間的な陰影がさして、作中屈指の素晴らしい場面のひとつだ。
調べると"fix one’s red wagon"=誰々(one)に仕返しをする、という俗語的表現があるらしい。類推するとここでは、背負っていかねばならない重荷、十字架、そういう意味にでもなるのだろうか。自他に対し常に厳しくあたり続ける(冒頭の高地占領時ですら、そう嬉しそうな表情ではなかった)ライアンの人間像に、新しい光が当たる一瞬でもある。あとはただ、煙草片手に黙々と歩いてゆくウィドマーク。渋い、渋すぎる…!(T^T)
さらに脇筋として、ライアンの補佐兼友人ホルト(カール・マルデン)と、「兵隊を漁ってる」と評判の悪い美貌の未亡人ジュリー(エレイン・スチュワート)との軽い三角関係と友情の一時的なこじれが描かれるが、この脇筋のほうはどうもよろしくない。いや、私のヒアリング能力不足が全ていけないのだろうが(こちらの描写は訓練風景に比べて死ぬほど聞き取りにくい)、何考えてるんだか微妙なところが全員ちっともワカランです。誰か字幕か吹替えつきで見たことある人是非教えてください~!
ホルトはすぐジュリーに夢中になり、ライアンはジュリーの過去や悪い噂を聞いて気に入らない(らしい)…のだが、彼女が気になり尋ねていくと強引にキスしてしまったり。そして、イライラがつのるライアンとホルトは仕事でも衝突し、はては訓練中に殴り合いの喧嘩という情けない一幕も勃発する。ホルトのほうが温情的な気質の持ち主で、演習途中に一休みして水を飲んだ新兵の扱いをめぐって言い合いが始まるのだが、どうも話中ジュリーについてライアンがきつい皮肉でも飛ばしたのかなあという感じである。最後には殴られたライアンのほうが謝っていたから…。だが、冒頭場面の戦場で、水を飲もうと気を緩めた兵隊が撃たれる姿を彼は目の前に見ているのだ。水筒を取り上げて叱り飛ばす彼の真意は決してただのイジメではないことが、ホルトらには分からずとも見る者には察せられる。それだけにどういう「言いすぎ」をやらかしているのか分からないのが実に残念…
そして、エンディング。訓練所から出る列車の駅へと誇らしげに行進してゆく“元”新兵たち。ライアンは新たに入所してきた新兵たちに、「あれが軍団だ!」"You will never make it!" と、16週前と全く同じように怒鳴りつけている。16週周期で、全く同じことが繰り返されるわけである。
「フルメタル・ジャケット」と違って(と言っても訓練シーンしかそっちは見てないが)、お気楽さと、陸軍宣伝臭さは否めない。が、男集団ならではの熱血でおおらかな味わいは見ていて楽しい出来栄えである。
このライアンの「二度め」を見る頃には、大抵の人がこの怒りっぽい軍曹に何だか親しみと痛快さを感じているだろう。
脇筋に欠点はあるが、自分としては大変楽しめた一作。つい、熱く語ってしまいました(笑)
こうして、ほぼ諦めていた作品を見るチャンスを得られるのは(字幕なしでも)、本当に本当にシアワセなことです…(*^^*)…でも、日本語字幕つきのDVDで出てほしいな!…出ないだろうけど…(時代がずいぶん違うし…)
VHSもDVDも国内外ともに出てないようなのでネタバレで…。
テキサスの新兵訓練所。一糸乱れず行進し駅へ向かう部隊と入れ替わりに、もぞもぞと落ち着かぬ様子でやってきた若者たちを、指導教官ライアン軍曹(リチャード・ウィドマーク)が一喝する。
"You will never make it!"
絵に描いたような鬼軍曹である。右も左もわからぬ若者たちを罵り、嘲り、叱咤して、彼らの恨みを一身に受けつつ規定の16週間をしごきまくり「とりあえず一人前(戦場に送れる状態)」にするのが彼の仕事。映画のファーストシーンは歩兵部隊の先頭に立って高地を攻め陥とすライアンの雄姿(物語の2年前)であり、当人は何度も前線への異動希望を出しているらしいが、「16週間しかないのだから」と、今の職務への打ち込みも本物。
物語は、主として新兵たちの訓練風景と、彼らの物覚えの悪さやいい加減さや悪戯(マジメな者もいるが)にかんしゃくを起こしまくるライアンとの掛け合いで進んでゆく。本物の戦闘シーンはもう出てこない。
千変万化する表情と声音(ラジオドラマ出身なだけはある)、いつものキビキビした身ごなしをさらに徹底させて押しまくるウィドマークがまさに快演、カンシャクを時には景気よく爆発させ、時にはぐっとこらえながら、身を捨ててまでのコワモテで「漢のド根性を見せ付ける」ことで新兵たちを引っ張ってゆく。教育係の軍曹は訓練中は基本怒っているし意地悪だ、というのは、「フルメタル・ジャケット」等で昨今の観客は皆ご承知だろうが、ここでのウィドマークの爆発は時にニヤリとさせる可笑しみをにじませるし、どうにかこうにか「仕上げられ」る新兵たちは、最後には、耐え抜いたぞという思いに嬉しそうに胸を張っている。男っぽいさわやかさが漂う作品といえよう。
特に、新兵たちの中でも一番口の減らない道化者ラス・タンブリンとのやりとりは、まるで漫才のよう。出てきた時からツッコミを待つが如き妙な柄のセーターを着た彼は、お得意のバック転なども披露して目立つ役どころ。その一方で真剣に落ち込んだりノイローゼになる新兵もいる。怒鳴っても罵っても動かなくなった一人は終盤ついに脱走を図る。勿論出口近くには渋い顔のライアンがしっかり先回りしている。が、脱走兵として厳罰が!と思いきや、彼はただ「人生を棒にふる覚悟が本当にあるのか?」と諭し、新兵をキャンプに連れ戻るだけだ。いぶかる相手に彼は「自分の父も脱走兵だった」と告げる。ぽつりと、「俺の"red wagon"かな…いや、何でもない」と呟く鬼軍曹に人間的な陰影がさして、作中屈指の素晴らしい場面のひとつだ。
調べると"fix one’s red wagon"=誰々(one)に仕返しをする、という俗語的表現があるらしい。類推するとここでは、背負っていかねばならない重荷、十字架、そういう意味にでもなるのだろうか。自他に対し常に厳しくあたり続ける(冒頭の高地占領時ですら、そう嬉しそうな表情ではなかった)ライアンの人間像に、新しい光が当たる一瞬でもある。あとはただ、煙草片手に黙々と歩いてゆくウィドマーク。渋い、渋すぎる…!(T^T)
さらに脇筋として、ライアンの補佐兼友人ホルト(カール・マルデン)と、「兵隊を漁ってる」と評判の悪い美貌の未亡人ジュリー(エレイン・スチュワート)との軽い三角関係と友情の一時的なこじれが描かれるが、この脇筋のほうはどうもよろしくない。いや、私のヒアリング能力不足が全ていけないのだろうが(こちらの描写は訓練風景に比べて死ぬほど聞き取りにくい)、何考えてるんだか微妙なところが全員ちっともワカランです。誰か字幕か吹替えつきで見たことある人是非教えてください~!
ホルトはすぐジュリーに夢中になり、ライアンはジュリーの過去や悪い噂を聞いて気に入らない(らしい)…のだが、彼女が気になり尋ねていくと強引にキスしてしまったり。そして、イライラがつのるライアンとホルトは仕事でも衝突し、はては訓練中に殴り合いの喧嘩という情けない一幕も勃発する。ホルトのほうが温情的な気質の持ち主で、演習途中に一休みして水を飲んだ新兵の扱いをめぐって言い合いが始まるのだが、どうも話中ジュリーについてライアンがきつい皮肉でも飛ばしたのかなあという感じである。最後には殴られたライアンのほうが謝っていたから…。だが、冒頭場面の戦場で、水を飲もうと気を緩めた兵隊が撃たれる姿を彼は目の前に見ているのだ。水筒を取り上げて叱り飛ばす彼の真意は決してただのイジメではないことが、ホルトらには分からずとも見る者には察せられる。それだけにどういう「言いすぎ」をやらかしているのか分からないのが実に残念…
そして、エンディング。訓練所から出る列車の駅へと誇らしげに行進してゆく“元”新兵たち。ライアンは新たに入所してきた新兵たちに、「あれが軍団だ!」"You will never make it!" と、16週前と全く同じように怒鳴りつけている。16週周期で、全く同じことが繰り返されるわけである。
「フルメタル・ジャケット」と違って(と言っても訓練シーンしかそっちは見てないが)、お気楽さと、陸軍宣伝臭さは否めない。が、男集団ならではの熱血でおおらかな味わいは見ていて楽しい出来栄えである。
このライアンの「二度め」を見る頃には、大抵の人がこの怒りっぽい軍曹に何だか親しみと痛快さを感じているだろう。
脇筋に欠点はあるが、自分としては大変楽しめた一作。つい、熱く語ってしまいました(笑)
こうして、ほぼ諦めていた作品を見るチャンスを得られるのは(字幕なしでも)、本当に本当にシアワセなことです…(*^^*)…でも、日本語字幕つきのDVDで出てほしいな!…出ないだろうけど…(時代がずいぶん違うし…)