Slattery’s Hurricane
Slattery’s Hurricane
Slattery’s Hurricane
1949年、アンドレ・ド・トス監督、日本未公開作品。モノクロ。

昨日原作を読んだところで(参照http://13374.diarynote.jp/200905230003357985/)、字幕なし映画本編にトライ。
おおお、これはさすがに助けになりますね。分からなくても「こういう状況がある筈なのだが」と思っていると、何度か聞き直すと閃くものがある。「それでもワカラン」ということの方が多いけれど(笑)

さて、映画。時系列通りの原作と違い、タイトルバックから既にハリケーンが来てました。
嵐の中、止めようとする誰かを殴り倒して強引に飛行機を発進させるスラッタリー(リチャード・ウィドマーク)。何故、何のために?物語はもっぱら、飛行中の彼の回想で進んでゆく。
個人的には回想形式にしないでくれたほうが良かったです。雨風の音が強い中で独白されると聞きとり辛いし…(爆)

スラッタリーはあやしげな富豪お抱えの自家用機パイロット。仕事は不定期だが割と暇なので、昼間っから富豪の秘書ドロレス(ヴェロニカ・レイク)とカジノでデート。ある日偶然、海軍航空隊の気象観測局で働く戦友ホビー(ジョン・ラッセル)と再会し、彼の妻アギー(リンダ・ダーネル)を紹介されるが、実は彼女はスラッタリーの昔の恋人だった。

戦時中、敏腕パイロットだった彼は、大戦果を挙げたのに上官に横取りされたという過去があった。除隊後も、海軍への怒り、人生の不公平への恨みは彼の中で渦巻き、彼をすさませていた。この卑怯な上官から食らった禁足10日の間に、アギーも誤解から姿を消したらしい。
誤解が解けた二人の仲は再燃するが、親友を裏切るという行為は彼を一層荒れさせる。彼を愛するドロレスのいさめる言葉も彼には届かない。「貴方も早く辞めた方がいい」と言い残し、彼女は職を辞し姿を消す。雇い主を乗せての飛行は、実は麻薬の運搬なのだった。だが、人生から受けた仕打ちを"取り返す"つもりの彼は、金払いの良い仕事を辞める気はない。

そんな彼に突然、海軍から一通の手紙が届く。今になって、歪められていた事実が判明したので勲章を贈りたい、という通知である。華々しい式典、「遅くはなったが、間違いを正せるのは喜ばしい事だ」と言う提督の言葉は彼の胸をえぐる。今の自分はこの栄誉に相応しい人間ではない。漸くスラッタリーは自分の生き方を後悔し始めるが、妻の裏切りを知ったホビーは酒に逃避し、麻薬に心身を蝕まれたドロレスは病院に収容されていた。
己のあやまちを少しでも正したい…と、スラッタリーは特大ハリケーン発生の緊急事態に、ホビーに代わって危険な観測飛行に飛び立ったのだった。

ラストは原作よりさらに甘め。原作のほうが「イチからやり直し」感が強くて、気恥かしいけどまだいいと思う。英雄として旅立つのは、ちょっとねえ。
だいたい麻薬組織はどうなったんだ…と思ったが、聞き直すと、不時着した飛行機から救急隊に引っ張り出されるスラッタリーが「ステイツにメッセージを伝えたい、いや、ハリケーンのことじゃなく」とか言ってるので、ここでちゃんと通報&自首もしようとしたのか、とやっとわかった。
他にも、原作に比べると、海軍への憤懣とか、麻薬関連とか、聞き落しもあるのかもしれないがイマイチ描写が不足な気が。ハリウッド映倫が削った説もあるらしい。…なるほど…(汗)
不倫に麻薬漬けヒロインに海軍批判に、考えてみると結構ややこしいネタかも。今ならどってことないのだが、4~50年代あたりのハリウッド映画って、夫婦の寝室だってダブルじゃなくツインベッドでないと許されなかったと聞くし。
しかしやっぱり、もう少し原作通りにしたほうがいい映画になったと思うな、絶対。

キャスティングはそれなりのレベルだが、ダブルヒロインはどちらもあまり趣味じゃなくて残念でした。妖艶なリンダ・ダーネル、こういう濃いタイプはあまり好きじゃないんだよね。ヴェロニカ・レイクはか細く頼りなげな薄倖の女なんだけど、いつものピーカブーヘアじゃないせいかどうか、妙に地味くさく見えて「奥様は魔女」や「サリヴァンの旅」の頃ほど可愛くなかった…まあ、多少年食ったということもあるのか。
お目当てのウィドマーク様は、いつも通りきちんと職人芸を見せてくれてると思うけど(ひいき目フィルターか?)。映画の大半は荒れ気味でワルな雰囲気で、ドロレスを突き放す場面など、自分の恋の悩みしか頭になくトコトン冷淡なのだが、その徹底ぶりがワルなりにやはりちょっとカッコいい。ややこしい恋に悶々としつつ、ほの暗い自室でやたら酒を飲みタバコをふかす演技も、シルエットだけでも味わいがにじみ出てさすがによろしい。メロドラマ向けの甘さはないので、彼が趣味じゃない人にはただのヤな奴かもですが。
ついでに、原作みたいにピアノ弾いてくれたらもっと良かったのにな~。いや、弾けるはずなんだけどね。「情無用の街」でも弾いてたし。


それにしても、…60年前って、ハリケーンが発生すると、進路を探知するため、海軍航空隊が観測用の飛行機を飛ばしていたんですね。考えるだに危険な話だ。ビバ技術の進歩…

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