ダーウィンだの漱石だの毎回フシギな要素を取り入れ個性的な作品をモノしてきた柳広司著。
今度はスパイ物…昭和のスパイ養成学校“D機関”がテーマの連作短編集、このミス2位にとびこんだのがある意味意外なほど、やっぱり個性的な味わいあふれる一作に仕上がっていました。

最高のスパイに必要とされるものは愛国心でも根性でもない。「この難しい任務布をこなせるのは自分だけ!」という自負、そして何ものにもとらわれない個人主義こそが、という“D機関”創設者・結城中佐のクールでスタイリッシュな姿勢がこの物語の魅力。一種コン・ゲームのような知的闘争がさらりと描かれている。そのくせ、全体として読み終わると、ひっそりと昏い時代の翳が差しこんでひとすじなわでゆかない感興をかもしだす。テーマから予想されるかもしれない重厚さではなく、むしろ典雅を感じさせる佳作。

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