1946年、デヴィッド・リーン監督作品。モノクロ(イギリス映画)。
スカパー録画で視聴。
英国の文豪チャールズ・ディケンズの「大いなる遺産」の映画化。

原作(邦訳だが)を読んだばかりでコレを見ると、あの場面もほしいあの描写もほしいあの説明も欲しいとか思わずにはいられないところもあるが、あれだけの長く深い話を約二時間にぶちこむのは確かに無理(もともと、登場人物たちの因縁のからまり加減は東映赤いシリーズか韓流ドラマかというくらいなのである。原作では文庫本上下巻使ってじっくり伏線も引いてあるのだが…)。
圧倒的に濃い、19世紀英国の世相描写・諷刺場面の省略は、いたしかたないところはある。
「あの説明も…」というのは、日本語字幕の字数制限のため私が見落としただけで本当はちゃんと台詞に入っている部分も多数あるだろうし。

ここはむしろ、映画というある程度時間的制約のある枠内で、ディケンズ世界の雰囲気をこれだけ良く出して盛り上げた映像美と演出・脚色の妙をホメるべきだろう。

開巻1分で、もう主人公の少年(アンソニー・ウェイジャー)は脱獄囚につかまって脅しあげられているというテンポのよさ。
ときどきエッ、とか思う改変も(ビディーの件はちょっと吃驚)、絶対捨てられない部分をきちんと描くための思い切りの良さとも言える。どんどん俗化していく主人公の描写は、そんな中で唯一?の善行と抱き合わせてさくっと減らし(勿論ゼロにはしていない)、そのぶんラストの描き方を原作のさりげなさとはかなり変えてしまったけれど、映像的にはパンチの効いたものになったわけで一定評価はできる。
あの荒れ果てたお屋敷、不幸な事件のあと打ち捨てられていた部屋は、主人公たちの運命を大きく動かしたカゲの黒幕ではあるし…

私が録画を見てるあいだ、背後でごそごそと自分たちのしたいこと(ネットサーフとかアルバム整理とか)をやってた家族達も、何か終盤はTVの方を見てましたからね。(…中途半端に見て、ここぞという場面で「アレはなんでや」とか聞くのはほどほどにしてほしいんだけどさ!)

もちろん、出演者たちもみな、半世紀以上前の名優たちなので余計にかもしれないが、原作の挿絵から抜け出してきたかのよう。
成人後主人公のジョン・ミルズは、良くも悪くも素直な青年を(老けてはいるが)好演。一見頼りなげだが善き友ハーバートは、これが映画デビューのアレック・ギネスで純情ぽいキョロキョロ目が印象的。限りなく優しい鍛冶屋のジョー⇒バーナード・ミルズ、野獣のような脱獄囚⇒フィンレイ・カリー、弁護士の助手ウェミック⇒アイヴァー・バーナードなど、名前までは知らないような英国俳優たちは全員ハマってる。主人公とウェミックとがウェミック父の前でぶんぶん頷いてる場面は爆笑でした。
冒頭のキャストでフランシス・L・サリヴァンの名に気づいた時には思わず「ジャガーズ弁護士っきゃない!」と叫びましたが、やっぱりこの辣腕弁護士を怪演してた。やっぱりな。

そして、少年時代の描写が素晴らしかったのも文芸映画の常だが大変効いていた。
身を縮めるようにして育つ貧しい孤児の主人公が恋する、仄暗いお屋敷で『男たちの胸を破るべく』育てられたジーン・シモンズの高慢美少女ぶりが素晴らしく、そりゃ、冷たいとわかっていても大人になるまでアトを引くのは無理ない感じ。…それだけに、成人後のヴァレリー・ホブソンは何とかならんかったんかーと物足りなさをおぼえた。「カインド・ハート」の時は割と好印象だったんだけどな、ホブソン…

残念なのはこの点くらいかな?…いやー、堪能いたしました(*^^*)

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