1945年、ガブリエル・パスカル監督作品。イギリス映画。
スカパー録画で鑑賞。大昔にTVで見た筈だが細部は忘れてたし…

バーナード・ショーの戯曲の映画化だが、ショー当人が脚色にも当たっているのでショー一流の英雄観や女性観はかなりストレートに反映されているのではないかと思う。イギリス映画としては華やかな(といってもハリウッド製クレオパトラほど派手ではない)、テクニカラーのスペクタクル大作なのだが、ウイットに富んだやりとり、人間ドラマの面白さが持ち味。スペクタクル娯楽作とはまた違った意味で、史実とかあまり考えずに楽しむのが良いようです。

姉弟でもある年若い王と女王をめぐり内戦の続く紀元前のエジプト。この地へ政敵ポンペイウスを追ってきた将軍シーザー(クロード・レインズ)がキャンプを抜け出し夜の散歩としゃれこんだところ、スフィンクスの麓をうろついていた美少女に遭遇する。先祖が黒猫だとか、ローマ人に食われるのが怖いとか妙なことばかり言うこの娘は、これも自分の宮殿を抜け出していたクレオパトラ(ヴィヴィアン・リー)だった。

最初は自分の女官長(フローラ・ロブソン)にまともに命令もできない、頼りない少女だったクレオパトラは、シーザーの励ましで次第に女王の自覚と気概を持ち始める。ポンペイウスは国王プトレマイオス勢力に既に殺されていたのだが、内戦状態のエジプトに平和を取り戻すべく、老練なシーザーは僅かな手勢でクレオパトラ宮殿に踏みとどまり続けるが、やがて国王派の重鎮ポサイナス(フランシス・L・サリヴァン)をクレオパトラが暗殺させたことから均衡は崩れ…


レインズ演じるシーザーは勤勉だがどこか飄々とした中年男で、一見したところ将軍というより政治家の印象が強く、クレオパトラを子ども扱いしている。ただしこの男、子どもには基本的に優しい。ポサイナスに操られる少年プトレマイオスに対してすら保護者のようだ。また反逆者を追及することも、敵を滅することも基本的には望まず、部下にも「甘すぎる、信じられない」と呆れられる。だが、寡兵でもしぶといシーザー・マジックを支えたのはその異常なまでの「寛容」でもあった。

とぼけた言動で諫言をそらしたり女王をからかったり、逆に彼女に髪の薄くなってきたのをからかわれてくさったり、英雄と呼ぶには人間くさく見えるが、"奇跡的な"優しさを見せながら真に深い愛着も嫉妬も示さない彼を「愛する対象になどできない」と言うクレオパトラの言葉は真実をついている。またいざ戦闘となると意外なほどの勇気と体力を発揮するシーザーはやはり常人ではない。さまざまな世界を統治し、(必要な時は)戦い続ける彼の人生には女子供は実はお呼びじゃないのだろう。最終的には勝利者として、新たな総督を任命し笑顔でエジプトを去るシーザーにとって、長年肩を並べて歩んできた部下たちにくらべれば、クレオパトラの存在などたいした重さを持たないようだ。
冒頭、スフィンクスを見上げて「世界をあちこち回ったが、心の友、もう一人のシーザーに出会うことは叶わなかった」と独白していたシーザー。英雄というものはそうそう人間的なワケないのかもしれない。

シーザーというと基本やっぱりレックス・ハリスンだよ!と思ってるハリスン・ファンの私ですが(王者の風格と稚気をユーモラスにブレンドする手錬の技が…☆)、レインズもなかなか。一見ソフトだが面白複雑なシーザー像を描き出して飽きさせません。最初ジョン・ギールグッドにオファーがあったそうだが、風采の立派すぎるギールグッドよりレインズでよかったのでは。
(でもハリスンの、というかエリザベス・テイラーの「クレオパトラ」も、テイラー追悼かねてもう一度見てもいいかも。…前半だけでいいんだけど本当は(爆))

ヴィヴィアン・リーも、ショーには気に入られてなかったようだがハマリ役だと思うな。狂騒的で可愛い、頭の軽い少女から、勝気で神秘的な美しい女王へ(猫顔なのがいかにもピッタリだ)。最初はエジプトのピグマリオンかな、と思ったが、ヒロインが自分の意志で自分を変えようと努力する話である。若く逞しい(普通の)男をこそ愛したいと主張するのは嘘ではないだろうが、いつまでも"雲の上"なシーザーに認めて欲しくて苛立ったり別れに涙する彼女こそ人間的。"客人"として扱ったボサイヌスの暗殺に際し、初めてクレオパトラに対し本気の怒りを見せるシーザーだが、彼女を弁護してやりたくなったりする(笑)
シーザーを裏切ろうとしていると讒言された恨みで命じた暗殺だったが、シーザーが「裏切られる時は裏切られる」と妙に達観した反応だから余計にキレたんだと思うな、女心としては。
あの細腰も"まだまだ結構コドモ"なクレオパトラにバッチリ。ヴィヴィアンのカマトト演技はやっぱり最強ですね。話としては「女はカヤの外」ですが。ショー先生だから仕方がないのか。

高圧的、と見せて根は献身的な女官長ロブソン、あいかわらずでっぷりのサリヴァン(「町の野獣」のクラブのボスね)などワキを固める面々もみな存在感たっぷりで、二時間少々一気に見てしまった。

あと、スチュアート・グレンジャーが、目立つが単に女性客を楽しませるためだろうな、ってなあまり意味のない脇(クレオパトラに好意的なイケメン剣士役)で出ていたのにびっくりした。完全に忘れていました。見終わったとたんにPCからファーリー・グレンジャーの訃報が流れてきていたので、一瞬エッ!と思ったんですが、グレンジャー違いでしたね(笑)

トレイラーはこちら。

http://www.imdb.com/video/screenplay/vi2847670553/

お気に入り日記の更新

日記内を検索